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2009年12月25日 (金)

排除の空気に唾を吐け

「排除の空気に唾を吐け」雨宮処凛:著(講談社現代新書)

雨宮処凛さんのお名前や姿は、メディアなどでよく見かけたものの、これまでは私と接点のある方ではないと思っていました。風貌もペンネームも、私たちおじさんとは、いかにも接点がなさそうな感じだったからです。
本書も、この挑発的なタイトル。しかも帯には、雨宮さんがタバコを吹かしている写真が掲載されています。以前だったら絶対に手に取ることのない本だったでしょう。

考えを改めたきっかけは、ビッグイシューという雑誌です。雨宮さんはそこで貧困問題に関するコラムを連載しています。きちっと取材して書いたであろうその記事は、胸を打ちました。そして「機会があれば、雨宮さんの本を読んでみよう」と思いました。そんなときに本書を見つけたのです。

これまでこのブログでは、貧困問題を扱った本を比較的多く紹介してきました。時系列で並べてみるとこんな具合です。

この15か月ほどの間に、本書で5冊目となります。これはちょっと多いかもしれません。思い出してみると、昨年読んだ「非正規レジスタンス」がきっかけでした。ここに描かれた非正規雇用者やシングルマザーは架空の人物でしたが、リアリティがありました。

一方、本書で描かれているのは、雨宮さんが取材を通じて見聞きした中身が中心です。こちらはリアリティと言うよりも説得力。やはり、現場を見てきた人の言葉には力があります。基本的には貧困問題を扱いながらも、無差別殺人、自殺、家族、シングルマザー、派遣切り、戦争などをキーワードに、現在の社会の問題を明らかにしています。

このうち私が気になったのが、まず無差別殺人と自殺の問題。雨宮さん自身十代の頃に自殺を図ったことがあるとのことで、この問題に対する筆鋒は鋭く厳しいものがあります。

  • 自分を殺すことと、他人を殺すことは、時に紙一重だ。だからこそ、「無差別殺人」は遠いものでもなんでもない(中略)。2002年からずっと、二十代、三十代の死因の一位は「交通事故」でも「病気」でもなく「自殺」。もちろん、この原因のすべてが「働き方」にあるわけではない。しかし「絶望」を生み出すこの国のシステムについて、私たちはもっと深く考えなければいけない。
  • 「自分が生きること自体が迷惑だから死んだ方がいい」多くの自殺者や、自殺志願者からこの言葉を聞いてきた。しかし(中略)私は勝手に彼の「生存」を、全実存を賭けて全肯定したいのだ。彼のような人がそれでもフツーに生きられる社会は、私にとっても居心地のいい社会だと思うから。

日本の自殺者は、交通事故死者を遙かに上回っているという話は、ニュースなどで知っていたものの、今世紀に入って20~30代の死因第一位が自殺であるというのは大変ショックです。これは個人の問題などではなく、雨宮さんが言うように、社会システムの何かがおかしいとしか考えられません。

また、シングルマザーの子育てや家族による介護に伴う貧困の問題についても、次のように述べています。

  • 制度の貧困の言い訳に利用される「家族」。今後、家族が大切、家族の助け合いや地域住民の助け合いが大切、なんていう一見「正論」に見える言い分には気をつけた方がいいかもしれない。その多くは、「自己責任」を家族単位に広げたものに過ぎないからだ。
  • この国で、女手ひとつで子どもを育てるのはあまりにも厳しい。この社会自体が「正社員の父親とその妻と子」という単位を前提として制度設計されているからである。システムに明らかな欠陥があるのだ。

憲法に基づき、本来国が責任を負うべき「健康で文化的な最低限度の生活」を、地域や家族や母親に押しつけている、と雨宮さんは言います。さらに「正社員の父親とその妻と子」という単位を前提として制度設計されているという主張は、非常に説得力がありました。

そして圧巻は、第8章の「民営化された戦争」です。貧困が戦争に直結しているという説明がなされています。詳しくはぜひ本書をお読みください。これまでの貧困関連の本には無かった視点でした。

現代の世の中に様々な形で存在する貧困。これらは、貧困に陥っている人たちだけの問題ではなく、ともに社会を構成している私たち一人一人の問題であることを、本書は教えてくれます。若干「大企業が悪い」という単純論的記述も見られ、気になりますが、それを補ってあまりある多数の事例が本書には収録されています。結局、経済のグローバル化に伴って、私たちは、社会の制度設計の見直しを迫られているのだなあと強く感じました。そのためには、政治や社会の状況に関心を持ち、きちんと考え主張して行くことが必要なのです。

自分自身と社会のあり方を考えさせられた一冊でした。

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