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2009年12月 7日 (月)

ぼくらの頭脳の鍛え方

「ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊」立花隆/佐藤優:著(文春新書)

いやあ、もうなんと申しましょうか、ものすごい本と出会いました。本書のページ数は、新書にしてはかなり多めで326ページもあるのですが、あまりの面白さに、一晩で読んでしまいました。いや、「面白さ」というのは、ちょっと正確ではありません。もったいなくて読むのが止められなくなる感覚です。それほど衝撃的な本でした。

本書は、文藝春秋社の新書「文春新書」が700点を突破したことを記念して企画された本のようです。「知の巨人」として有名な立花隆さんと、元外務省官僚にして「知の怪物」と言われる佐藤優さんが、それぞれ「自らの書棚から選んだ100冊」と、「書店の書棚から選んだ100冊」を紹介し、それについて対談しています。つまり、合計400冊の本が紹介されています。

「なんだよ、単なる図書紹介の本じゃないか」と思わないで下さい。二人は対談の中で「なぜこの本を選んだのか」という話題とともに、その本に書かれていることの周辺について語り合うのですが、そのやりとりが尋常ではないのです。たとえば、世界政治に関して、佐藤さんが詳しいロシア政治の歴史について、次のようなやりとりがなされています。

佐藤:(中略)レーニン主義というのは、イコール、スターリン主義なんですよ。その本質がユーラシア主義と私は理解しています。
立花:プーチンに至るまで、そういう思想は継承されているんですか?
佐藤:その通りです。彼は地政学者なんです。私は(中略)「ロシアと現代世界(佐藤53)」を翻訳したんですが、現代のロシアを地政学的にどう見るかを考察した本なんです。
立花:なるほど、地政学では、ユーラシア大陸を「世界島」と呼び、世界の中心はあくまでユーラシア大陸にあるとする認識から出発する。(中略)冷戦時代の米ソ対立の根本にあるのがこの構図です。イデオロギーの対立もあったけど、その底にはこの構図があった。
佐藤:その通りです。(中略)この本が出ると、大統領に就任したエリツィンは、この本のイデオロギーをすべて採用して、少し改ざんした形で新生ロシアのイデオロギーを作ったわけです。

※(佐藤53)というのは、佐藤さんが必読書として挙げているリストの53番目という意味。本書では会話中、このようにリストに挙げられた本が紹介されてゆきます。

佐藤さんは、ロシアを専門とする外務官僚でしたから、ロシアの歴史に詳しいのは当然として、立花さんは、その話題に自らの知見を重ねて返答しています。おかげで読者は、こうした難しい問題に対しても、一定の理解をすることができるのです。
こうしたいわば「役割分担」は、話題ごとに異なります。立花さんが得意とする脳科学や宇宙の話の場合は、この逆の分担で展開し、二人とも詳しい日本政治については、立花さんが主導権を握りながらも、重要なポイントは佐藤さんにヒアリングするという形で展開します。こうした構成のおかげで、二人の知識の広さと深さに、たびたび驚かされながらも、その一端を垣間見ることができた喜びを感じることができるのです。

こうした対談可能にしているのは、二人の高い識見ばかりではありません。もう一つ重要なのは二人の「きく力」。聞く力と訊く力です。立花さんはジャーナリストでしたし、佐藤さんはインテリジェンス(国家のための情報収集をする仕事)の専門家でしたから、不明なことに対する反応が機敏で、すかさず鋭い質問をします。そして理解したことに対しては、自分の言葉で言い換えて理解したことを相手に確認するのです。こうした、いわば「インタビューの運動神経」のおかげで、本書は非常にテンポ良く読むことができました。

また、二人の意見が対立する場面も必読です。現在売れっ子の「勝間和代さん評」が真っ二つに割れる当たりは、非常に楽しく読めました。さらに、佐藤さんが獄中で経験したことや考えたことについての話。こうした「転んでもただでは起きない」という姿勢が重要なのだと考えさせられます。それから立花さんによる蟹工船批判。これはだれも指摘していないことだそうですが、事実とすれば大スキャンダルです。衝撃的でした。

Bokura 他にもご紹介したいエピソードが山のようにある、本当に中身の濃い対談です。しかも200冊の紹介も入っている。これで940円(税別)というのは、本当に安いと思いました。本の帯には「ブックガイド」などと書いてありますが、これは本のガイドなどではなく、「知の指南書」とも言うべき本でしょう。これから学んで行こうとする大学生や、高校生にぴったりの本なのかも知れません。
いずれにしても、本当に良い本と出会えて幸せでした。

余談:それにしても、この帯のツーショットはすごい写真ですよね。怖くて逃げ出したくなります。

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