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2009年12月 3日 (木)

手塚治虫傑作選「家族」

「手塚治虫傑作選『家族』」(祥伝社新書)

手塚治虫さんのマンガは、その没後も文庫やペーパーバック版など様々に形を変えて出版されていることは知っていました。けれども、本書の存在、つまりテーマごとに再録された新書版が出版されていることは知りませんでした。それだけ奥深い作品ばかりと言うことのなのでしょう。
出張先で読む本がなかったこともあり、購入して読んでみました。

本書に収録されている作品とその初出誌は次の通りです。

  • ブラック・ジャック 勘当息子……「週刊少年チャンピオン」1977年3月21日号
  • ブッダ外伝 ルンチャイと野ブタの物語……「希望の友」1978年3月号
  • ブラック・ジャック もらい水……「週刊少年チャンピオン」1978年7月24日号
  • 鉄腕アトム 白い惑星の巻……「少年」1963年お正月大増刊
  • 地球を呑む アダジオ・モデラート……「ビッグコミック」1969年1月号
  • てんてけマーチ……「月刊少年ジャンプ」1977年9月号
  • ブラック・ジャック 落としもの……「週刊少年チャンピオン」1976年11月22日号
  • グランドメサの決闘……「プレイコミック」1969年3月10日号
  • 山の彼方の空紅く……「ジャストコミック」1982年5月号
  • 野郎と断崖……「プレイコミック」1968年11月25日号

思えば、手塚さんのマンガを購入するのは、およそ30年ぶりです。この中で、ブラック・ジャック(以下BJ)のシリーズは、リアルタイムで読んでいましたからストーリーは覚えていました。けれども受けた印象は、30年前とはまったく違います。昔は子どもの立場で読み、今は親の立場で読んでいる、というの立場の違いもありますが、やはり人生経験の違いというのが大きいのかなと思いました。
たとえば「もらい水」という作品。

手狭な病院を経営する医者とその母の話。入院患者が増えると、医者はいつも老母の部屋を明けてもらっていた。母はその間、知り合いの家を訪ね歩くのだが、毎度のことに皆辟易して断る。途方に暮れているところへBJが通りかかると、老母は山へ連れて行って欲しいと言う。野宿をするのだと。その晩、大地震が起こる。BJが山へ駆けつけると、案の定老母は大けがをしていた。彼女を連れてBJは、息子の元へ向かうのだが…

これを最初に読んだのは、高校生の時でした。このときは「なんと薄情な息子だろう」と思う一方、「どうしておばあさんは、息子の言うがままなのだろう」と感じたような気がします。けれども今読んでみると、母に部屋を明け渡してもらう息子の気持ちも、進んで家を出て行く母の気持ちもよくわかります。わかるように描いてあるのです。

最近夏目漱石の「こころ」を読み直しています。高校の時教科書に掲載されていたこの作品は、当時まったく心に響きませんでした。授業で先生が「人間のエゴイズムを描いて…」などと言っていたような、かすかな記憶があるだけです。けれども、今読むと、作品の世界にぐいぐい引き込まれます。自分のいやな部分を、引きずり出されるような気持ちにさえなります。これには読解力も影響しているのでしょうけれど、人間関係の様々な葛藤を経験してきたことが大きく影響しているのではないかと思いました。

翻って手塚作品を考えた時、そのすばらしさが際立ちます。若い時は理解しにくい夏目作品に対して、手塚作品は、子どもなりに楽しく読める上、大人の鑑賞にも堪えるのです。これはマンガという手法だからではありません。手塚さんという作家の能力がなせる技です。実際、本書の作品は、どれも一見浅く見えて奥が深い、単純に見えて複雑、というものばかりでした。

小説もマンガも、良い作品は読み直してみると、必ず新たな発見があります。今回は「家族」という切り口を設定してもらったおかげで、手塚作品の魅力を再発見することができました。年末年始の休暇には、本棚で眠っている本を引っ張り出してみようかな、という気持ちになりました。

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コメント

最近、手塚治虫さんの『「いのち」と「こころ」の教科書』を購入しました。この中の一部が、旧大阪書籍の6年社会科に資料として掲載されています。職場に「教材」として持っていったら、同僚の間を回し読み中で、持ち主には、なかなか戻ってきません。手塚治虫さんの作品は、子供の頃から愛読していましたが、いつ読んでも、心に残る作品です。

投稿: みに | 2009年12月 5日 (土) 01時56分

みにさん、コメントありがとうございました。
ははあ、こんな本もあるのですね。
さらに
「「おかね」と「こころ」の教科書」というのもあるようです。
参考になりました。

投稿: むらちゃん | 2009年12月 5日 (土) 02時11分

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