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2010年1月14日 (木)

読む心・書く心

「読む心・書く心―文章の心理学入門」秋田喜代美:著(北大路書房)

北大路書房の「心理学ジュニアライブラリ」のシリーズは、昨年、全部で4冊ご紹介しました。

「ジュニアライブラリ」ですから、本来は中高生向けなのですが、心理学初心者の私には、レベル的にちょうどよく、書店で未読のシリーズを見かけるたびに買うようになりました。
それで最近購入したのが、本書というわけです。

本書の購入を決めたのは、シリーズだからというだけではありません。前書きの中に、とても気になる部分があったからです。

私はこの本を書くに当たっていろいろな本(とくに、「読解力アップのための本」など)を読んでみました。(中略)残念なことに、それらの多くの本は、著者の経験から「どうやったらいいか」は書かれているものの、「なぜそうするといいのか」の説明はきちんと書かれていないことです。

確かに私自身、本で紹介された方法に合点が行くと、「なるほど」と思ってしまい、その方法がなぜ良いのかまでは考えない傾向がありました。日ごろから「根拠が大事」とか言っているにもかかわらず恥ずかしい限りです。
本書ではそうした根拠を、心理学の知見を使って説明しています。とはいえ本書の想定読者は中高生。文章の読み方や書き方についても悩んでいるのに、さらに心理学と言われても、ふつうの説明では混乱を深めるだけです。その点、本書の導入(序章)は極めて良くできているなと思いました。以下に要約してみます。

次の二つの単語を読んで下さい。
  電話 先生
おそらく瞬時に読めましたね。でも日本語を習いたての人だと、
「電話」は、「先生」よりも読むのに時間がかかります。画数が2倍以上多いからです。みなさんは漢字をパタンで認識できるので、画数が問題になりません。これは単語の場合も同様です。こうしたことが可能なのは、みなさんの心の中に内的辞書という辞書があるからです。この辞書は、読むための蓄えになります。

「文字を読む」という行為の心理学的説明になっていると同時に、読者に対して「あなたには既に読む力が備わっているのですよ」というメッセージになっています。これは、読み書きに不安を持っている読者にとっては、この上ない励ましになることでしょう。序章では、さらに推論知識といった言葉を心理学的に説明しています。

この序章を踏まえて、第1章「読むことはつなぐこと」では、まず推論を中心に説明がなされます。実に巧みなつながりです。そして、説明に当たっては、非常に具体的な例示がなされています。しかもその例示が、作家の文章、意味不明な文章、英文、マンガ、テストなど、実にバラエティに富んでいます。このうち、「文章を読む時の態度を測る尺度」というのが気になりました。いくつか紹介します。

  • 読んだ内容について自分なりの理解をしようとする
  • 読む前に目次をよく見る
  • わからなかったところに印を付ける
  • 大事だと思ったところは文章に線を引く

全部で28の項目が挙げられていて、「よくやる」なら、「やることがある」なら、「やらない」ならをつけ、合計点数で判断するというものです。中には?な項目もありましたが、こうした尺度によって、自分の読書の態度を客観的に把握しておくというのは大切だなと思いました。授業評価にも似たところがあるので、読解の授業で、「どう読むのか」を考えさせる場合にも有効なのではないかと思いました。
尺度については、第2章にも批判的な読み方についての尺度が掲載されています。こちらもセルフチェック用、指導用として有用なのではないでしょうか。

文章生成の方法を書いた本は星の数ほどあり、読み方の本も相当あります。けれどもその二つをセットにして、スキルでなく心の働きの一部として説明しているというのが本書の特徴です。しかも多くの事例や演習が掲載されていて、いわゆるPISA型読解力の育成にも役立ちそうな事例も詳しく掲載されています。
ですから、高校生くらいなら教科書として使うこともできるのではないでしょうか。2002年の刊行以来、すでに4度も刷りを重ねているのは、おそらくそうした使われ方(読まれ方)をしているのではないかと想像します。

文章指導にご興味のある方には、お薦めの一冊です。

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