« 学びとコンピュータハンドブック | トップページ | エンゼルバンク9 »

2010年1月 1日 (金)

公立学校の底力

「公立学校の底力」 志水宏吉:著(ちくま新書)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

秋頃から、「来年最初に紹介する本は何にしようかなあ」と考えていました。もう辞めてから13年も経つのに、編集者気質が抜けず、「どの本を紹介するか」と同じくらい「いつ紹介するか」を考えてしまうのです。まあ、ほとんど成功していないように思いますがweep

考えた末に決めたのが本書です。タイトル中の「そこぢから」という言葉が、なんだか元気を与えてくれると思いませんか。

志水さんの書籍として、以前「公立小学校の挑戦」をご紹介しました。そこで紹介されていた布忍小学校を含め、本書では全部で12の公立学校(小・中・高校)の取り組みが紹介されています。とはいえ、単なる紹介ではありません。このあたりのことを志水さんは次のように書いています。

私は二十代の前半から教育社会学と呼ばれる学問領域の研究に携わってきた。(中略)もっぱら学問的真理の追究に情熱を燃やしてきたが、学校現場とのつながりが深まってきた四十代に入ってから、私は、調査を通した客観的な「事実」の探求のみならず、先生や子どもたちの「声」を通して教育現場の「真実」を社会に伝えることも同じように大事なのではないか、と次第に思うようになってきた。(中略)今日、公立学校の旗色はすこぶる悪い。(中略)本書では、学校を批判したり、教師を断罪したりするスタンスではなく、教育現場の「希望」を語るという基本的立場から、話を進めていきたいと思っている。

学問の世界では、とかく客観性・公平性が旨とされることから、対象と関わらない研究者は少なくありません。しかし、志水さんが四十代で考えが変わったのは、教育現場でたくさんの真実に触れたからでしょう。拙いながら、私にも多少思い当たるところがあります。それだけに、客観的「事実」だけでなく「真実」を伝え「希望」を見出す、という考えに、私は胸を打たれました。

もう一つ、本書の序章では、近年日本で台頭してきている「新保守主義」「新自由主義」と教育の関わりについて書いています。政治家や識者の間から、「道徳教育や家庭のしつけを強化せよ」とか、「教育はサービスだから顧客満足度を」といった声が高まっている、と。こうした「素人」の声こそが、公立学校を惑わせ、負担を増加させているのではないか、と志水さんは言います。サッチャー政権の下で急速に実施された、新自由主義的なイングランドの教育改革を実際に目にした志水さんの主張は、かなり説得力がありました。

そして本書の白眉は、最終章「『力のある学校』をつくる」ではないでしょうか。12の学校の取り組みを紹介したあと、日本の公立学校が進むべき道筋を示した章と言えそうです。では「力のある学校」とはどんな学校でしょうか。

私は数年前から、あるべき学校の姿を「力のある学校」という私自身の造語で捉えようとしてきた。学校現場ではよく、「力のある子ども」「力のある教師」という言葉が聞かれる。「力のある子ども」とは、(中略)総じて「いくつかの側面で高いポテンシャルを持っている子」のことを形容するときに、その用語が使われる。「力のある教師」も同様で、「学習指導・生徒指導・部活指導などの諸領域で、総合力の高さを発揮する教師」がいるとき、もっぱらその言葉が用いられる。
学校についても同じ事なのではないか(中略)公立学校は、専門店としては成り立ち得ず、地域密着型スーパーというか、「何でも屋」たらざるを得ないのである。問われるべきは、個別的・専門的な優秀性なのではなく、多面的な総合力である。そして「力のある学校」とは、高い総合力を発揮している学校のことである。

長い引用になったことをお許し下さい。これは、政治や世間による場当たり的な「教育論」に対する、志水さんなりの強烈なアンチテーゼだと思いました。つまり、学校とは多面的な総合力によって教育力を発揮する機関なのだから、施策の変更をする場合、慎重さが要求されると言うことです。拙速や思いつきが厳禁であることはもちろん、素人が決定を下せるはずがありません。
そして「学校」から「力のある学校」へと変貌を遂げるため、志水さんは「スクールバスモデル」という考え方を示し、道筋を具体的に述べています。この部分、学校の先生方や教育委員会の方には大変参考になると思いますが、企業の人間にとっても非常に示唆に富んでいると感じました。「力のある学校」は、そのまま「力のある企業」と置き換えて読むことができるからです。

Nenga2010 年初の誓いを立てるに当たり、本書は、多くの方にとって参考になる本ではないでしょうか。私も、今年はいろいろな意味で挑戦の年になりそうです。みなさまにとっても良い年になるよう、お祈りいたします。

もしこの記事を良いとお感じになったら下をクリックしてください。励みになります。
にほんブログ村 本ブログへ
ランキング参加中

|

« 学びとコンピュータハンドブック | トップページ | エンゼルバンク9 »

教育書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/47110656

この記事へのトラックバック一覧です: 公立学校の底力:

« 学びとコンピュータハンドブック | トップページ | エンゼルバンク9 »