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2010年3月24日 (水)

インテリジェンス武器なき戦争

「インテリジェンス 武器なき戦争」手嶋龍一:著/佐藤優:著(幻冬舎新書)

なんとなく私の読書は、4~5冊同時並行で読んで行くというスタイルが定着しています。購入した順にきちんと読みたいと思ってはいるのですが、つい興味の向きから読んでしまうので、どうしてもこんな読み方になってしまうのです。こうした読書法を積極的に推奨している方もありますが、私はあまりお勧めしません。読みかけ状態のまま何年も放置される本が出現してしまったり、同じ本を複数買ってしまったりして無駄が多いからです。

本書もそんな「放置された一冊」。読み始めたのは、2年ほど前なのですが、つい最近読了しました。けれども結果的に、今読むのがベストの本だったなあと思っています。

本書は「インテリジェンス」という外交手法(組織)の入門書です。冷戦前後にNHKワシントン特派員として活躍した手嶋さんと、「外務省のラスプーチン」と言われた佐藤さんの対談によって、インテリジェンスの諸相が明らかにされます。

  • インテリジェンスとは何か
  • 冷戦から現在に至る日本外交において、インテリジェンスはどのように機能したか、あるいはしなかったか
  • 今後日本のインテリジェンスはどのようにあるべきか

本書のポイントは以上の3点と言ってもよいでしょう。ここで言う「インテリジェンス」とは、むろん「知性」という意味ではありません。佐藤さんは、次のように解説しています

「インテリジェンス」という言葉は日本語に翻訳するのが難しいんですが、その本質を一番よく表しているのは、戦前の陸軍参謀本部が使っていた「秘密戦」だと思います。その「秘密戦」を当時は四つの分野に分けていました。一番目は積極「諜報」。これがポジティブ・インテリジェンスですね。二番目はカウンター・インテリジェンスを意味する防諜。そして三番目が「宣伝」、四番目が「謀略」です。

俗な表現で言うなら、スパイ活動ということになるでしょうか。諜報や謀略というと、何かとても悪いことをしているように感じられるかもしれませんが、そうではなく、国益を守るための根回しなのだと言います。いわば「政府広報」や「ロビー活動」だというわけです。少し前まで日本のインテリジェンスは、割と機能していて、たとえばアンドロポフ(当時ソ連の最高指導者)の死去をいち早く掴むことができたとのこと。本書では、なぜ掴み得たのかを詳しく示しながら、日本のインテリジェンスのあり方を提言しています。

これが、外交評論家の提言であれば「ふ~ん」で終わってしまう話ですが、各国のインテリジェンスと直に接した経験のある二人の話は刺激的であり、特に手嶋さんがアメリカ、佐藤さんがロシアに詳しいこともあって、非常に具体的で説得力がありました。

  • 1991年第一次湾岸戦争時、テヘランの日本大使館が放ったクリーンヒット
  • 大韓航空機撃墜事件における日本のミスと犯したタブー
  • 沖縄返還時の密約や小泉訪朝における情報秘匿の問題

特に三番目の情報秘匿の問題は、現在もニュースでたびたび取り上げられることもあって、興味深く読めました。二人は「外交上秘匿すべき情報が発生するのは当然であるし、国民に利益があるならウソも必要。しかし嘘を吐いたという記録は残さねばならないのに、それらがないのは非常に問題」と言います。まったくその通りだと思いました。

私が本書を「今読んで良かった」と感じたのは、このように今につながる話題が語られていることです。本書が刊行されたのは2006年ですから、当時私は、今後も自民党政権が続くという前提で読んだことでしょう。しかし実際には2009年に政権交代がありました。この事実に立って本書を読んでみると、どうもこの二人は現在の事態をかすかに見通していたのではないかと思えてきます。それくらい、二人の情報分析は鋭く、明快なものでした。

今得られている情報を元に、未来をどう予想するか。そのためにはどんな知恵や知識が必要なのか。こうした情報時代に必須の事柄について、重要な視点を教えてもらった一冊でした。

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