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2010年3月22日 (月)

知る楽 歴史は眠らない

「歴史は眠らない 2010年2-3月 NHK知る楽(火)」円満字二郎:著/内橋克人:著(日本放送出版協会)

先日の出張の際、読む本がなくなり空港の書店をぶらぶらしていた時、本書が目に入りました。「漢字」と「貧困」がテーマのようです。特に漢字については、新しい常用漢字について特集されていることから読んでみることにしました。

一読して、これは何とお得な本か!と感動しました。「漢字」についての話も、「貧困」についての話も、それぞれ新書を1冊読む程度の内容があり、非常にためになりました。特に本書は、NHKの放送テキストという性質上からか、資料性に優れています。本文で言及されている書籍や史跡、建物等が大きめの写真、場合によってはカラー写真で掲載されているのですから、これは、ある意味新書以上と言えるでしょう。

まず「漢字」について。2009年1月に文化庁から試案が発表された「新常用漢字表」をきっかけに、明治以降の漢字制限の歴史と考え方を紹介しながら、現代の常用漢字表の意義について検討しています。
これは、2010年2月に放送された内容のテキストらしいですが、残念ながら見逃していました。しかも2009年9月に放送された内容の再放送とのことですから、2度の見逃していたことになります。テレビの番組欄もたまにはちゃんと見なければなりませんthink

私自身、漢字についてはかなり詳しいつもりでしたが、当用漢字の制定前に「常用漢字」という枠組みが存在したことや、戦前よく使われた「八紘一宇」が戦後の漢字制限論の遠因になったことは初めて知りました。また、漢字制限に対する新聞社や作家の反応を詳しく取り上げて考察していることや、子どもの出生届や水俣病の話題など社会問題と漢字の関係を明らかにしている点は非常に新鮮でした。特に、組版のしやすさから、漢字制限に賛成していた多くの新聞社が、自社名の表記になると立場をコロッと変えて異体字を許容すべきと主張した、という指摘には笑ってしまいました。(たとえば朝日新聞は、社名ロゴの「新」が一般的な字体と異なり、偏が「立+禾」になっている)

著者の円満字さんは、「新常用漢字表に意味があるとすれば、それは教育においてであろう」と結論づけています。私も大筋で賛成ですが、二つの点で気になりました。
一つは、学校教育の面です。現在の常用漢字1945字でさえ習得が怪しいのに、現在の試案では190文字程度増えることになっています。この増えた分は、すべて中学校で習得することになるのか、一部小学校に下ろす(教育漢字とする)のか不明ですが、学校現場に多大な負荷を与えることは必至です。増やさない努力をすべきなのか、常用漢字と教育を分けるべきなのか、この点についての言及が欲しいところでした。円満字さんは、元教科書編集者とのことですので、残念です。
もう一つは、外国人への日本語教育の面です。外国人が日本語を学習する際、漢字表記に関して一定の枠があった方が良いことはその通りだと思います。しかしこれは、漢字に限らず正書法の問題です。ここへの言及はたとえ一言でも欲しかったと思いました。

次に「貧困」について。貧困の歴史が非常に丹念に追いかけられていて、「貧困は自己責任」「貧困問題と経済政策は分けるべき」といった、昨今の新自由主義的主張がいかに間違っているかが解明されています。その象徴的存在として、日本資本主義の父とも言うべき渋沢栄一(私の故郷の英雄)が取り上げられているのが印象的でした。渋沢氏が、資本家として工場労働者の待遇改善を図る「工場法」の制定には反対する一方、日本初の公的社会福祉施設「東京養育院」をしていたという事実は、全く初耳でした。この矛盾を内包した資本家の姿勢こそ、現代の貧困問題を読み解くカギになるのでは、と内橋さんは説いています。非常にユニークで重要な視点だと思いました。

まったく期待せず購入した放送テキストでしたが、意外にも大収穫の一冊でした。「知る楽」という番組も、今後ちゃんとフォローして行きたいなと思います。

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