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2010年3月19日 (金)

未来への周遊券

「未来への周遊券」最相葉月:著/瀬名秀明:著(ミシマ社)

本書は、ノンフィクションライターの最相さんと、作家であり薬学博士である瀬名さんの往復書簡。といっても、もちろんプライベートな手紙のやりとりではなく、産経新聞の企画なのだそうです。産経新聞には「往復書簡」というシリーズがあって、著名人による手紙のやりとりが掲載されていて、すでに何冊も書籍化されているとのこと。恥ずかしながら、まったく知りませんでした。

そもそも本書を知ったのは、行きつけのJ書店の店頭で、派手にディスプレイされていたからです。二人とも私の好きな作家ということもあり、立ち読みもせず購入してしまいました。とはいえ、書評などで知った本でもないのに、中を1度も空けずに本を買うなど初めての経験。書店から帰宅する電車の中で、ちらっと読み出すと、あまりの面白さに止まりません。あやうく電車を乗り過ごすところでした。

本書で交わされている「手紙」は、科学技術の未来を話題としながら、すべて見開き2ページの短いものです。けれども、文章のプロが紡いだ「手紙」だけに、光る言葉で印象的なエピソードが語られています。しかも往復書簡ですから、相手の言葉を受け止め、互いに影響し合ったやりとりがなされます。
そしてこの「相手の言葉の受け止め方」が絶妙なのです。一見何の関連もなさそうな書き出しでありながら、最後にはきっちり相手の文章を受けているとか、紹介されるエピソードの補強材料に使われているとか、その織り交ぜ方がすばらしい。プロの文章だなあと唸らされる場面が数多くありました。たとえばこんな具合です。

(最相)未来は予測できない。でも、瀬名さんのいう「運命への平静さと勇気と知恵を持ちたい願い、生きる」人々は、たしかに目の前にいる。(中略)未来を考えたいと願う人々の輪も広がっている。列車は、走り始めた。
(瀬名)未来を考えるということは、私たちひとりひとりが今と未来の間に「ひとつの装置」を見出すことなのかもしれない。その小さな装置が集まって、未来への列車は駆動するのだろう。

最相さんが科学技術の未来に希望を見出したい人の集まりを、「列車」というメタファで表現したのに対して、瀬名さんは、最相さんがライフワークで取り組んでいる作家、星新一さんの作品「ひとつの装置」を引用しながら、「列車」の再定義を試みます。こういう深め方は素人にはできません。
星さんがらみのやりとりは、他にも数多くなされています。

(瀬名)星新一もまた、暗闇と希望を知る人だったのだろう。中谷宇吉郎は渦巻く虚空とともに簪を挿した蛇の物語を愛した。暗闇と希望をつなぐのは物語る力だろうか。
(最相)星新一は「生命のふしぎ」とともに小説家になった。科学者としてではなく、物語を作ることで到り着きたかった場所はどこだったのだろう。星は、暗闇の中に見えないものを見ただろうか。
大阪城公園の地下十五メートルには、タイムカプセルが眠っている。星新一と作家仲間が発案し、大阪万博のときに実現したものだ。(中略)開封されるのは五千年後の西暦六九七〇年。人間を、世界を、私たちがどれほど理解したいと思っていたか。未来は受け止めてくれるだろうか。

長い引用で恐縮です。この部分は、星さんを巡るやりとりであると同時に、本書の特徴的な部分でもあります。瀬名さんの「簪(かんざし)を挿した蛇」という記述は、中谷宇吉郎さんの著書名です。さらに最相さんの言葉にある「生命のふしぎ」は、星さんのデビュー作。本書では、こうした科学書籍の紹介が非常にたくさんあります。そして単に紹介するだけでなく、最相さんが紹介した本を瀬名さんが読んだり、その逆もあったりと、お互いに影響し合うのです。読者は、そうした名著のさわりを労せずして知ることができるのですから、真にお得な本と言えるかもしれませんwink

理科離れなどと言われて久しい昨今、科学技術の今と未来に気軽にアクセスできるという意味で、おすすめしたい一冊です。

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