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2010年3月11日 (木)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海:著(ダイヤモンド社)

書籍のタイトルには、大きく2種類あると思っています。「バカの壁」のようにインパクト重視のものと、「○○の仕方」のように分かりやすさ重視のものです。前回ご紹介した「ん」は、インパクト重視。言葉だけでなく見た目のインパクトも強い、とても工夫されたタイトルでした。

一方本書は、完全に分かりやすさ重視。本書の内容は、まさにタイトル通りです。あえて補足するならこんな感じでしょうか。

高校野球のマネージャーが、ドラッカーの書いた経営学の本『マネジメント』を読んで実践したらどうなるか

本書は小説の体裁を取ったドラッカーの「マネジメント」という書籍の入門書です。正当派の小説ではないとはいえ、高校野球部のマネージャーが、「マネジメント」を読む、という設定はちょっと無理があるように思う方もいるでしょう。実際、私も読み始める前は、この萌え系の表紙とも相俟ってかなり懐疑的な印象を持っていました。けれども、読み終えてみるとまったく違和感はありません。そもそも設定に無理があるとか無いとか、そんな気持ちはどこかへ吹き飛んでしまいます。読後に残るのは、「早く『マネジメント』を読んでみたい!」という気持ちです。そういう意味ではとてもよくできた入門書だと思いました。

主人公の川島みなみが出会う、最初のドラッカーの言葉は、マネージャーの資質について書かれた次の一節です。

マネージャーの仕事は、体系的な分析の対象となる。マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。(百三十頁)

みなみは、その部分をくり返し読んだ。特に最後のところをくり返し読んだ((中略)「…真摯さって、なんだろう」。

この「真摯さとは何か」という問いが、物語全体を貫くテーマにもなっています。おそらくこれが、「マネジメント」においても重要なキーワードなのでしょう。
こうした抽象的な教訓の他、みなみは、「マネジメント」から、野球部がなすべき具体的な施策のヒントも得るようになります。マーケティングについての記述から、部員一人一人へのヒアリング、監督との話し合いを進めていく部分は、非常に面白く、またビジネス上もためになりました。そして私がもっとも参考になったと感じたのは、イノベーションに関する部分でした。ドラッカーの言葉は、次のように紹介されています。

イノベーションとは、科学や技術そのものではなく価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす変化である。イノベーションの尺度は、外の世界への影響である。(二六六~二六七頁)

みなみや監督は、ここから高校野球界へ変革をもたらすことこそがイノベーションであると理解し、独特の戦法を編み出し、実践して行きます。私はイノベーションについて、以前ご紹介したクリステンセンさんの書籍でよく理解したつもりでしたが、「組織の外にもたらす変化」というとらえ方はしていませんでした。しかしよく考えてみると、イノベーション=価値の創造であるとすれば、評価基準は必然的に外部となります。自分一人で「価値がある」と叫んでも意味はなく、価値があるかないかは他者が決めるものですから。このあたりの、一見分かりにくい原理も、高校野球というメタファーを通じて解説されると、容易に理解することができます。

みなみたちのチームが、甲子園に行けるのかどうか、その結末についてはぜひ本書をご覧いただくとして、私自身は「マネジメント」をできるだけ早く読んでみようと思いました。原書は1400ページもあって、大変そうなので、みなみが読んだという「エッセンシャル版」にしようと思いますが。

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コメント

こんばんは。
これはとっても面白そうな本ですね。
高校野球、マネジメント、イノベーションと、
私にとって飛びつきたくなるような要素が束になっています。ごくり。
是非読んでみたいと思います。

投稿: 時折 | 2010年3月11日 (木) 17時56分

時折さん、コメントありがとうございました。
はい、かなり面白い本です。文字も大きく、紙も厚い本なので、だいたい2時間くらいあれば十分読めますよ。
ただ、表現技法や文章には結構厳しい部分もあるので、どうかその部分には目をつぶっていただいて(笑)。

投稿: むらちゃん | 2010年3月11日 (木) 23時59分

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