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2010年4月19日 (月)

マーケティングを学ぶ

「マーケティングを学ぶ」石井淳蔵:著(ちくま新書)

「マーケティング」という言葉を聞いて、みなさんは、どんな印象をお持ちになりますか。「合理的」「分析的」「理知的」「先進的」というポジティブなイメージでしょうか? それとも「役に立たない」「うさんくさい」「評論家的」といったネガティブなイメージでしょうか。

私自身は、商品企画の仕事をしているにもかかわらず、これまでどちらかといえば、後者のイメージを持っていました。ですから、どうして本書を購入してしまったのか、実はよく覚えていませんcoldsweats01。分厚い本ですし。
とはいえ、結果的には読んで良かったなあと思っています。マーケティングに対する偏見もずいぶん軽減されました。

私がマーケティングに対して、これまでうさんくささを感じていた最も大きな理由は、「結果論なら誰でもできる」という思いがあったからです。私が知りたいのは未来、つまりこの企画が成功するかどうかなのに、過去の商品がいかに成功したかを「分析」するのがマーケティングだと思っていました。書店に行くと、マーケティングを扱った本はもとより、現在好調な企業の「成功の秘訣」が書かれた本がずいぶん並んでいます。
けれども成功の理由なんて、本当に特定できるのでしょうか? 例えば、薬を飲んで病気が治ったとして、それは薬効のおかげなのかそれとも安静にしていたおかげなのか、判然としない場合が多いでしょう。なのにこれまで私が出会ったマーケティング本は、「これこそが成功のポイント」などと歌い上げるものが多かった気がします。

では本書が、商品企画の未来を明らかに指し示してくれたかと言えば、そうではありません。けれども「顧客にとって良い商品を作り、確実に届ける」という、企業の基本的なミッションを、商品企画だけでなく、組織体制も含めて一体的に解説してくれています。しかもその解説は、非常にロジカルかつ具体的で読みやすいものでした。
たとえば、マーケティングについては、「マーケティング=過剰品質時代における企業経営の救世主」として、次のように説明しています。

ワープロは、自分の考えを表現するには欠かすことのできないツールとなったが、今では使ったこともない、使いこなそうとも思わない機能が数多く含まれている。こうした「過剰品質」は、今や食品や化粧品などあらゆる商品に見られるようになった。しかしこうなると、生活者は、機能や品質の向上に興味を持たなくなる。
こうした供給が過剰となる経済において登場してくる経営手法が、マーケティング・マネジメントである。

いろいろな意味で耳の痛い主張ですsweat01。これは結局、生活者が本当は何を望んでいるのかを把握できないという、ディスコミュニケーション状態をいかに脱するか、という話でしょう。「生活者が本当に望んでいること」について、石井さんはうまいたとえをしています。

1/4インチのドリルが売れたとき、顧客が欲しかったのはドリルではない。1/4インチの穴である。

これは、言い古された例えではありますが、いろいろな示唆に富んだ話です。メーカーの人間は、自分が作った商品がかわいいですから、どうしてもそこに価値を見出してしまいます。けれどもお客は、その商品でできることに対してお金を払っているのです。

こうした考えに立って本書は、商品の企画からブランドの維持や拡張について、具体的商品を元に解説しながら、組織運営のあり方、営業の目的の刷新と体制作りに至るまで、本当に幅広く解説しています。特にぐっと来たのは、営業について「営業の目標は、商品を売ることではなく、商品が生活者の手に届くまでのプロセスを整備すること」「営業は企業と顧客の関係作りの媒体」と指摘していることです。マーケティング・マネジメントとは、こんなに広い概念だったのかと驚きました。
本書を読んで、「マーケティングは所詮結果論」という私の考えは、「木を見て森を見ず」であったなあと思います。過去を分析調査することで、そこに流れていた考え方を再確認し、次の企画を行う際の組織体制を見直すというところまで考えるのがマーケティングなのだと思いました。組織作りについての記述は、部署や業種にかかわらず、管理職の人すべてに参考になることでしょう。

このブログを読んでくださっている方は、教育関係者が多いようですので、本書で私が読み取った中身を、以下のように学校教育風に読み替えてみました。いかがでしょうか。

  • 「学習指導要領が変わったから○○をする」→→×
  • 「当地域の子どもは□□だから、指導要領に照らして○○をする」→→○
  • 「○○の教材の教え方を研修する」→→×
  • 「クラスの子の○○という状態に対応する教え方を研修する」→→○

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