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2010年4月30日 (金)

電子書籍の衝撃

「電子書籍の衝撃 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?」佐々木俊尚:著(ディスカヴァー携書)

最近の新書のタイトルは、過激なものや奇矯なものが多くなったように感じます。本書も最初書店で見かけたときは、「衝撃」なんて、大げさだなあと思いました。しかも値段を見たら1100円(税別)。9割方買うのは止めようと思ったのですが、どうにも電子書籍への興味が収まらず、つい購入してしまいました。
で、結果は大正解。確かに「衝撃」受けた本でした。

少し前に、Kindle(アマゾン社の電子書籍閲覧装置)の実物を見ました。それまでは、「ディスプレイで本を読むなんて」と思っていたのに、実際に目にすると「こりゃ、すごい」と思いました。パソコンやテレビの画面と違い、ディスプレイ自身が発光しないため、紙を見ているのと同じ感覚なのです。これなら目が疲れにくいので、長時間の読書にも耐えるなと思いました。
そしてiPadの登場。こちらの実物は見ていませんが、iPhoneのアプリが使えるとのことで話題になっています。電子書籍のページ切替は、実際の書籍のように、ページめくりを模したアニメーションが動くとのこと。ある機器メーカーの方に伺ったところ、このアニメーションのスピードは、今のところiPad以外出せないのだそうです。
どちらの装置もまだ日本語対応はしていませんが、今年中にはどちらも対応することでしょう。そのほかの会社からも参入があるかもしれません。これらの、いわゆる「電子ブックリーダー」から目が離せません。

たいへん前置きが長くなりました。本書が約300ページもかけて語っているのが、「電子ブックリーダーがもたらす新たな出版の姿」なので、簡単にご紹介した次第です。「機械くらいで出版業界は変わらないよ。第一、みんな本なんて読まないし」とお感じになった方、その考えは二重に間違っています。その点を含め、本書では次のように説明されています。

  1. 電子ブックリーダーは、同時に購入装置でもある。これまでの「著者→出版社→流通→書店→読者」という本の流れを、「著者→読者」に変える。
  2. 通常著者は、定価の10%前後を受け取る。しかし電子ブックでは75%を提示する会社が現れている。実際米国では、ベストセラー作家がアマゾンと契約して話題になった。
  3. 「若者の活字離れ」というのは全くのウソ。統計によれば、図書館利用率、書籍購入費用は、いずれも伸びている。むしろ離れているのは中高年。
  4. 有名作家かどうか、優れた作品かどうかといった壁は消え去り、だれもが作家、だれもが出版者になれる時代となる。作家と読者が出会う、マッチングビジネスも起こるだろう。

こうした主張は、佐々木さんの単なる想像ではありません。出版業界はもとより、音楽業界への丹念な取材に基づいて書かれているのです。だから説得力があり、少し恐ろしい気もします。佐々木さんが主張の証拠にしているのは、主として次の2点です。

  • 違法コピーに頭を痛めていた音楽業界が、Apple社の構築した仕組みに頼ったことで、存在感を無くした。反面、少数のファンだけを相手にする個人音楽家が成立するようになってきた。
  • 書籍が流通するかどうかは、内容ではなく専ら出版社と流通の力関係で決まってきた。「委託販売」も機能していない。このままでは、音楽業界同様、版元が存在感を失うことになる。

確かに、携帯音楽プレーヤーの登場は、音楽流通と音楽鑑賞のあり方を根本から変えました。「音楽と書籍ではコンテンツの性質が異なる」としながらも、佐々木さんは、電子ブックリーダーを出しているアマゾン社やApple社は、出版界を音楽界同様に変えて行こうと考えている可能性が高いというのです。

書籍のデジタル化は、出版界だけでなく、どうやら教育界も大きく変えそうです。少し前に、原口総務大臣は、「2015年発行の教科書からすべてデジタル化する」と述べました。教科書無償化に関わる膨大な経費と、技術的背景と、教科書流通の前近代的な部分を考え合わせると、こうした発言もあながち荒唐無稽とは言えません。

KindleやiPadの登場は、どうやら私たちの生活を大きく変える入口になりそうです。そうした意味で、出版流通の一体何が問題で、電子ブックリーダーを出す会社は、何を狙っているのかを知る意味で、本書は適切な入門書と言うことができます。私も、業務上大きな衝撃を受けました。

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コメント

TBさせていただきました。
私もぞくぞくしながら読みました。
こちらでは、丁寧にまとめてくださっているので、雑な読み手である私としても非常にありがたいです。
本当にこの本に書かれている以上の「衝撃」をもたらしていくんだろうなと感じます。

投稿: 時折 | 2010年5月17日 (月) 06時20分

時折さん、コメントありがとうございました。
ブログ記事も読ませていただきました。特に「続きを読む」以降のご意見には激しく首肯した次第です。
出版界は間違いなく大きな転換点を迎えていますね。

投稿: むらちゃん | 2010年5月17日 (月) 08時00分

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