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2010年4月 9日 (金)

飛びすぎる教室

「飛びすぎる教室 ─シミズ博士の雑談授業─」清水義範:著/西原理恵子:絵(講談社文庫)

本書は、以前もご紹介した「お勉強シリーズ」の最終巻。タイトルは、ケストナーの「飛ぶ教室」をパロディにしていることが明らかで、思わず笑ってしまいました。
これまでは、国語・算数・理科・社会をテーマにして、清水さんがわかりやすく解説して行く、という構成でしたが、今回はそうした教科的な背景はありません。敢えて言うなら「学校の先生が授業を脱線して話す雑談」と、清水さんは書いています。

とはいえ雑談と言うには、結構なボリュームと知的な刺激がありました。(もっとも、それがなければ商品としての書籍にはならないわけですがcoldsweats01)本書で語られている雑談は、次の通りです。

  • 第1話 文明の自己紹介(歴史の話)
  • 第2話 食べ方は生きる知恵(料理の話)
  • 第3話 見たことありますか(幽霊の話)
  • 第4話 時を刻む方法(暦の話)
  • 第5話 商品としての人間(奴隷の話)
  • 第6話 眠るための場所(墓の話)
  • 第7話 翼のある使者(天使の話)
  • 第8話 有名な話がいっぱい(聖書の話)
  • 第9話 異世界にひたる(旅行の話)
  • 第10話 中心でもなく端でもなく(宇宙の話)

どれも非常に興味深い話だったのですが、冒頭に歴史の話が来ているのが本書のポイントでしょう。清水さんは、私たちが学んできた世界史は、ヨーロッパ史と中国史に過ぎないとして、インドやイスラム文化の歴史認識を紹介しながら、第1話を次のような主張で締めくくっています。

我々は、つい日本史を古代、中世、近世、近代、現代などと分けて考える。さらに先進国、後進国と考えたりもする。これは、歴史は前に進んでいく、という変な思い込みにとらわれているからだ。文明や文化に、達成度の採点をつけていく考え方は、そろそろ見直すべきかもしれない。優劣ではなく、世界にはいろんな文明、文化があり、それぞれが自分たちの自己紹介、つまり歴史を持っているのだと考えてみるのはどうだろう。

確かに自分の価値観で、他者を判断してしまうことはよくあるような気がします。さらに、他者から価値観を押しつけられたときに、有効な反論ができなかったりもします。最近話題となった、イルカ猟の問題や、クロマグロ禁輸の動きなど、まさに象徴的な出来事だったなあと思いました。

こうした歴史認識に立って、以後、料理、幽霊、暦と話が進んでゆきます。このうち私が面白いと思ったのは、暦の話、天使の話、聖書の話です。
暦の話では、現在使われている暦と、日本の昔の暦、中国の暦、ヨーロッパの暦、そしてイスラム文化の暦について、その特徴が説明されています。特にイスラムのラマダン(断食月)については、ニュース等で「ラマダンにあたる月」という表現がなされるのか、なぜ夏だったり冬だったりするのか、ということがよく分かりました。世の中には本当にたくさんの時間のとらえ方があるものです。
天使の話は、歴史的宗教的定義の話に始まって、映画における天使の表現についての話に発展して行きます。特に多くのアメリカ映画について、天使というキーワードで読み解くと、また別な見え方ができる、という指摘は驚きでした。「天使とは、背中に羽の生えたあかちゃん」という認識から離れないと、なかなかこうした発想はできません。
そして私にとっては聖書の話が最もためになりました。ここで主に話題とされている旧約聖書は、物語の宝庫。それゆえ様々な文学作品や映画、芸術作品になっています。けれども、そうした作品と旧約聖書の関係はあまり語られませんから、どうしても表層的な理解にとどまってしまいます。本書では旧約聖書に登場する人物たちの特徴や関係が簡潔に解説されているので、「あ、これも聖書由来かぁ」とか「なるほど、あの作品の意味はこういうことか」という驚きの連続でした。有島武郎の「カインの末裔」や、ミケランジェロのダビデ像の理解が深まりました。

まあ、雑学を身につけてどうするの、というご意見もあろうかと存じますが、少なくとも私には知的な基盤ができたような気がします。とても楽しく読めた一冊でした。

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