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2010年5月14日 (金)

脳ブームの迷信

たちまちわかる最新時事解説 脳ブームの迷信」藤田一郎:著(飛鳥新社)

行きつけの書店で岩波ブックレットが置いてある書棚を物色していたら、本書を発見しました。版型は岩波ブックレットと同じで、サブタイトルにある通り、時事ネタを扱っているという点が特徴のようです。

帯には「脳トレ、サプリは脳に効かない!? 世に広まる怪しい迷信を一刀両断! 脳科学の現場から真実を提言」と書いてありました。確かに最近は、多くのメディアに「脳に効く」とか「脳によい」などといった言説が頻繁に登場します。これまで私は、こうした表現に対し、ほんとかなあと思いつつも、信じたい気持ちも持っていました。

著者の藤田さんは、視覚認識の脳メカニズムと大脳皮質の発達が専門の脳科学者です。帯に「世に広まる怪しい迷信を一刀両断!」とあるので、本書では、世に広まる怪しい「脳科学」をばっさばっさと斬って行くのかと思ったらまったく違いました。冒頭で藤田さんは、本書の執筆動機を次のように書いています。

私が脳ブームの問題に対し発言する適任者かどうかを悩みましたし、また、人であれ商品であれ、批判すると言うことは気の進まないことでもあります。しかし、ここで一歩踏み出すことにしました。本書では脳科学の視点から脳に関する風説や迷信を検証し、脳ブームが内包する問題点について述べようと思います。研究現場にいる私が書くわけですから、脳科学の実態を具体的に伝えることも同時に心がけたいと思います。

このように本書の主張は、科学的事実を示すことで「脳によい、と考えるのには無理がありますよね」と諭すように展開されています。終始控えめな書きぶりなのです。
ここで俎上に挙げられているのは主に、次の4点です。

  1. 脳トレ
  2. 脳によいとされるサプリメント
  3. 脳に関する迷信
  4. 脳文化人

まず脳トレについては、すでに週刊誌などでその実験の有意性に疑義が唱えられていますからご存じの方も多いでしょう。ある種の計算を行っている際、脳の血流量が増えたからといってそれが脳を鍛えることになるのかどうか、そもそも計算だけで血流量が増えたと言えるのかどうか、などの疑問が提示されています。よく使われる「脳が活性化した」という言葉の盲点についての説明は、詐欺的商法ではよく使われるロジックだなあと思いました。
脳トレに関する藤田さんの説明は、脳トレ商売について考えることに役立つことはもちろん、実験結果の捉え方・因果関係の特定法など、科学的説明の基礎を理解する上でも役立つなと思いました。

次にサプリメントについて。私はこれを読んで、ずいぶんだまされてきたなあと思いましたshockギャバ入りの食品を食べてもストレスは軽減されませんし、DHAを飲んでも頭は良くならないのだそうです。まあ冷静に考えてみれば、経口摂取した食品がすべて脳に影響を与えているとしたら、怖くて食事などできませんから当たり前なのですが。一見もっともらしい説明をされてしまうと、ころっとだまされてしまう自分が悲しくなります。

それからテレビに出て、脳に関してもっともらしいことを言う人のことを、本書では「脳文化人」と呼んでいます。これはおもしろいカテゴリ付けだと思いました。藤岡さんは固有名詞こそ出さないものの、彼らの問題点を具体的に指摘しています。
たとえば本書の表紙は、有名な錯視アートで、ほとんどの人は、ここに描かれた模様がぐるぐる動いて見えるのだそうです。私も見えました。この現象はなぜ起こるか、という問いに対して、ある脳文化人は
 「脳がそういう癖を持っているからです」
と解説したとのこと。それは説明になっていない(すべての現象がそう言えるから)、と藤田さんは言います。確かにこの言葉は、何にでも使える魔法のコメントです(苦笑)。しかし、こうした説明になっていない説明は、身の回りに意外と多いのではないかと思いました。この項は、メディアリテラシーの問題にもつながる、重要な指摘だと思いました。

本書は活字が非常に大きく行間も広いレイアウトで、しかも100ページにも満たない薄い本です。それで750円というのは、正直どうよ、と買う前は思いました。けれども、本書は話題の取り上げ方も適切ですし、説明の仕方も上手です。科学的なものの見方、論理的な考え方の基礎を学ぶという点でも参考になると思います。1時間もかからず読めてしまう割に、中身は濃いと思いました。
飛鳥新社のこのシリーズは、今後も注目したいと思います。

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