« 「若者はかわいそう」論のウソ | トップページ | パラサイト・イヴ »

2010年6月27日 (日)

こころと脳のサイエンス01号

「こころと脳のサイエンス01号 別冊日経サイエンス 170」日経サイエンス編集部:編(日経サイエンス社)

先日行きつけの書店で、別冊日経サイエンスのフェアをやっていました。これまで別冊のシリーズは、ちょっと難しめのものが多いなと思って敬遠していましたが、立ち読みしてみると、いつもの雑誌同様美しい図版と平易な文章で記事が構成されています。これなら読めそうだ、ということで、心理学系、脳科学系の話題が豊富そうな本書を購入しました。本書で注目したのはこんな記事です。

 ・親よりも友だちが重要
 ・遊ばないとダメ!
 ・プラセボ効果が生じる理由
 ・父親の高齢”出産”リスク

親よりも友だちが重要」という記事は衝撃的でした。10年ほど前に「子育ての大誤解」という本を書いて物議を醸した著者のハリスさんが、最近その改訂版を出したとかで、インタビューに応じた記事です。「子育ての大誤解」の主な主張は次の通り。

現在広く信じられている「愛情をこめて抱きしめると、優しい子どもになる。寝る前に本を読み聞かせると、子どもは勉強好きになる。離婚は子どもの学業成績を低下させる。体罰は子どもを攻撃的な性格にする」といった論説は、すべて学者たちのずさんで恣意的な学説から生まれた、まったく根拠のないものだ。

親の立場からすると、ほっとするような虚しいような、そんな学説です。けれども昔は大人数の兄弟が当たり前で、10人以上の家族などざらに存在していたわけですから、子育てに親が介在する割合は、相対的にものすごく低かったはずです。実際ハリスさんは「子どもの成長に親の関わりが影響するという考え方は20世紀の中頃に生まれた」と主張しています。
さらに気になったのが、「40人学級は20人学級よりもグループに分かれやすく敵対しやすい」という発言。その直後に「それでもアジアの先生はうまくやっている」とは述べているものの、やはり一般的に、40人学級というのは異常に多い人数なのでしょう。子どもの社会性の成長について、伝統的価値観に縛られずに本質を追究する、というこの研究は非常に面白いと思いました。

次に「遊ばないとダメ!」は、「発達途中の脳には、遊びが不可欠。それもルールや体系のない遊び。遊ばないと生きるのに必要な能力が身につかないことが動物実験でも明らかになった」という記事でした。「そんなの当たり前」と思われる方も多いでしょう。けれどもこの記事で驚くのは、それは大人も同様と述べていることです。その中身も、子ども同様、体を使ったり人と交わったりする遊びがよいとのこと。これは脳の発達と言うより、精神面の健康のためのようですが。

プラセボ効果が生じる理由」を読んで、病気を治すのは医学なのか心理学なのか分からなくなりました。「プラセボ効果」とは偽薬が効く現象のことで、近年ほぼあらゆる病気に効果があることが分かってきたのだそうです。さらに、患者が「この薬は効く」と思い込まされていない場合でも、潜在意識に働きかけることで、同様の効果があるとのこと。そしてこの効果を利用したドーピングまで開発されつつあるとのこと。いやはや、人間の業は深いなあと思わずにいられません。

最後に「父親の高齢”出産”リスク」。女性の高齢出産では、ダウン症などのリスクが高まることはよく知られていますが、最近男性にもそうしたリスクがあることが発見されたのだそうです。世界的に晩婚化が進んでくると、こういう方面の研究も進むのだなあと感慨深く読むことが出来ました。

別冊日経サイエンスといっても、がちがちの理系話題ではなく、このように文系っぽい話題も多いことがお分かりいただけたかと思います。ポイントは、主張の根拠を導き出す手法が理系だということです。それぞれの記事は、話題の立て方と解説の仕方が、新書に近いと思いました。近頃では、新書でも800円、900円するものが少なくない中、たった1500円でこれだけの話題が読めるのですから、かなりお得な本と言えるのではないでしょうか。

|

« 「若者はかわいそう」論のウソ | トップページ | パラサイト・イヴ »

教養書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/48662004

この記事へのトラックバック一覧です: こころと脳のサイエンス01号:

« 「若者はかわいそう」論のウソ | トップページ | パラサイト・イヴ »