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2010年6月21日 (月)

効果10倍の教える技術

「効果10倍の<教える>技術―授業から企業研修まで」吉田新一郎:著(PHP新書)

「教える」という言葉を聞くと、最初に何を思い浮かべるでしょうか。多くの方が、「学校」や「先生」という言葉、あるいはその姿や様子を思い浮かべるのではないかと思います。
では「教える」というのは、実際にはどのような行為なのでしょうか。
 ・教壇の上で先生が教える中身を説明すること
 ・黒板にポイントを書くこと
 ・掛け図や写真、ビデオや実物を見せること
おそらく、このようなイメージを持つ方が多いと思います。しかし、著者の吉田さんは、これについて冒頭次のように疑問を提示します。

私たちは、学校や大学の教室だろうが、企業の研修室だろうが、社会教育センターの会議室だろうが、前に立って話をするのは教師や講師の役割であり、生徒や受講者はおとなしく座って話を聞くもの、と思い込んではいないでしょうか? 主役はいったい誰だと思いますか? (中略)こうした、これまで私たちが当たり前のようにしてきたことが、私たちの「学び」を助けてきたと思いますか? それとも妨げてきたと思いますか?
本書の目的は、教えたり、学んだりするときの「間違った習慣」に気づき、より正しい前提に立った教え方・学び方のプログラムを組み立てる際のヒントを提供することにあります。

これを読んで「そんなの当たり前だよ。講義型の教育なんて一切してないよ」とお感じになった先生や研修担当者は、とてもすばらしい仕事をなさっています。本書を読む必要は一切ありません。けれども、授業や研修の構成やあり方について、少しでも見直してみたいという方にはお勧めです。

その理由は、本書が単なるノウハウの伝授ではなく、分析的に捉え直すための視点がいくつも、具体的に示されているからです。
まずは、「学びとは何か」について。吉田さんは外国の教育学者の学説を引用しながら次のように説明しています。

学びは、「何ページまで習った」といった「消費」ではなく、学習者によって知識や意味が「生産」されること。それには、自分のものにするための練習の時間も必要です。

この「消費→生産」という捉え直しは非常にユニークだと思いました。そして生産のためには時間が必要であると言うことも。学習活動を生産であると考えれば、教える側は学習者に対してどのような「おみやげ」を持たせられるかを考えますし、学ぶ側は得たものは何か?と振り返ることが出来ます。

Model

こうして学びを定義した後、学びの型(モデル)について、古今東西の教育学者の理論が吉田さんなりにアレンジされて説明が展開されます。例えば左は、吉田さんがコルプという学者のモデルをアレンジした図です。授業や研修で展開される学習活動を、左の図にまとめて行くと、活動のバランスがよく分かり、授業分析に役立つのではないかと思いました。

その上で第4章をまるまる使って、「研修で学んだことを実際に生かすには」について説明しています。研修では分かったつもりになっても、職場に戻ると元の木阿弥というのは、受講者が怠け者だからということではなく、人間とはそういうものだということです。そのための対処法は「習慣を変更するのは非常に難しいことを理解した上で、研修の最後に自らの行動計画を作成する」とか「励ましが重要だから、講師からインフォーマルなメールを送ると良い」といった具体例が示されています。このあたりは、なんだかダイエットに似ているなと思いました。

本書に書いてあることは、教育法について少し詳しく学んだことのある方なら、目新しくはないでしょう。提示された学習モデルの中で、脳科学的アプローチによる説明は、私が本で得た知識と矛盾する説明もありました。
しかし、「教える技術」について、これだけコンパクトにまとめたという点で、価値ある一冊だと思います。しかも、著者の吉田さんは、先生でも教授でもありません。企業のコンサルティングが本業の方です。説明や講習会の内容が悪ければ、たちまち仕事を失ってしまうシビアな仕事です。だからこそ本書は、具体的で実践的なのでしょう。

私自身は教える仕事とはまるで無関係です。けれども、「教える」という行為を分解して見せてくれた本書のおかげで、「考える」「理解する」など、企画の仕事をする上で重要な頭の働きを再認識することができました。先生たちだけでなく、頭を使う仕事をする人なら、書斎の傍らに置いて損のない一冊だと思います。

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