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2010年6月30日 (水)

制服概論

「制服概論」酒井順子:著(文春文庫)

酒井さんの文章は、週刊文春の「私の読書日記」というコラムで月に一度読んでいます。出世作である「負け犬の遠吠え」といい、書き手の女性性を前面に出した文章が印象的だなあと思っていました。まあ、誰しも自分の性からは離れにくいわけですから、当たり前なのですけれど。

先日書店で文庫の棚を物色していたとき、本書を見つけました。「酒井さんが制服?」と思いつつ表4を見てみると、書かれた内容はなかなか魅力的です。

セーラー服、学ランなどの「期間限定の制服」、OLやスチュワーデス、料理人などの「働く制服」、さらに「戦う制服」「スポーツと制服」……なぜ私は、そし てなぜ日本人は制服が好きなのか。人生で一度も制服を着る機会に恵まれなかった制服好きの著者が検証する、ときめく制服、ときめかない制服の法則。 解説・嶽本野ばら

私が「酒井さんと制服」に違和感を感じたのは、私には「制服好き=男」というイメージがあったからです。ところが読み進めるうちに、この本は女性でなければ書けないなと思いました。
まず中高生の制服について分析した章で書かれている「制服は若さの拘束衣である」や「セーラー服は高校生までしか着られない期間限定服である」といった定義は、おそらく制服好きの人なら誰でも書けるでしょう。しかしこの章のすぐあとにある「制服観光」と題されたコラムは、女性いや酒井さんでなければ書けない文章でした。大正時代から変化していないと言われる、山脇学園のセーラー服を「観光」しに行ったレポートなのですから。

大量の山脇生達は、最初のうちは皆同じように見えます。しかし見慣れてくると、まったく同じ条件下にある分、顔や体型の個性が、際立ってくるのです。(中略)額の形や肌のきめ、首の長さに足首の締まり具合……といったものの違いが、かえって生々しいほどに浮き彫りにされるのです。

酒井さんが述べる制服の魅力は、もちろん性的なものも含まれるのですが、このように同性ならではの視点が特徴的です。その視点は髪型にも注がれていて、三つ編みが義務づけられている山脇生の中に、「ほんのきもーちゆるめに編んだ髪」も発見します。このあたりは、いくら制服好きでも男性には判別不能でしょう。それに第一、山脇生たちの通学風景を、男性がこんな風に「観光」していたとしたら、きっとただでは済まないはずです。そういうことも含めて女性にしか書けない文章だと思いました。

本書は以後「働く制服」「戦う制服」「スポーツと制服」「儀式と制服」「制服の『頭部』」「制服を脱ぐとき」と続きます。
このうち「働く制服」にもっとも多くのページが割かれ、「OL」「スチュワーデス」「看護婦」といった、男子お気に入りの制服はもちろん、「サラリーマン」「料理人」についても、酒井さんの観察眼が遺憾なく発揮されていました。「料理人」はともかく、「サラリーマン」は制服なのか? という疑問は吹き飛ばし、「ネクタイや上着の拘束感や脱いだときのがっかり感は、制服そのもの」と酒井さんは言います。なるほど。
そして「制服観光」のコラムで取り上げられているのが、宝塚音楽学校と寅壱。「寅壱」というのは、主にガテン系の作業着を売っているお店です。このお店で売っている物の「観光」と、店に置かれた広報誌を読んでの妄想から、酒井さんは、寅壱ファンに自分と同じにおいをかぎ取ります。これも、男性のライターが、看護婦の制服売場で同じ妄想に耽ったとしたら、完全に危ない人なわけで、やはり女性にしか書けない文章なのです。

このほか「儀式と制服」では、矢沢永吉コンサートに集まるファンの「制服」について言及し、「制服の『頭部』」では髪型や制帽についての考察をしています。ファンの服装や制服に付随する髪型が「制服」であるという視点はなかなか面白いと思いました。
そう、本書の魅力はこうした視点なのです。「制服」というキーアイテムで、世の中を巧みに切り取っています。切り取って見せてもらった内容は、決して「勉強になった」という類のものではないものの、世の中の見方としては新鮮でした。
文章を書くときの視点と、書き手の性について考えさせられました。

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