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2010年6月 4日 (金)

憎まれ役

「憎まれ役 」野村克也/野中広務:著(文春文庫)

タイトルといい著者といい、なかなか迫力ある本です。書店の書棚で、ひときわ異彩を放っていましたから、つい手に取ってしまいました。そして、野中さんの書いた序論「憎まれ役 世に憚る」を読んで、購入を決めました。

なぜ、私は、こんなに野村さんに興味をもつのだろうか。あるとき、ハタと気づきました。私と彼とはいくつも共通点があるのです。二人とも京都府に生まれ、二人とも這い上がった男です。酒をたしなまず、甘いものに目がないなどという共通の部分もありました。カッとしやすいところも似ているかもしれません。そして何より共通するのは、二人ともメディアには、「憎まれ役」扱いをされていることです。
日本の政治もプロ野球も、重大な局面を迎えています。しかし本音で問題を語る男はほとんどいません。今こそ日本の政治、日本の野球のために、「憎まれ役」を買って出ようと考えた所以です。

最後の一文が本書の執筆動機であり、タイトルの由来でしょう。うまい構成の文章です。こうした掴みの巧みさは、さすが政治家の文章だなあと思います。
こうした序論でしたから、本書は野中さんと野村さんの対談なのかと思いました。けれども実際は、一つのテーマについてそれぞれが持論を展開する「対論」です。互いに一家言持つお二人ですから、考えを述べ合う形式としては適切だと思いました。

第1章 グローバリズムに屈した野球と政治──危機論
第2章 小泉と長嶋 人気支配の落とし穴──リーダー論
第3章 「這い上がり」だから言う、格差社会批判──機会均等論
第4章 負けない野球、負けない政治──戦略論
第5章 V9巨人こそ、日本と自民党の理想だった──組織論
第6章 地位に恋々とせず、すべてを擲つ──人材論
終章  念ずれば花開く──人生論

本書を読むまでは、プロ野球と政治に共通点があるというのは、少々無理のある主張ではないかと思いました。けれどもこうして目次を眺めてみますと、共通性が見えて来ますし、そうした視点で見直してみると、政治と野球の本質や問題点が、それぞれよく見えてくるのです。それが現れている項目の要約をご紹介しましょう。

  • 巨人軍と自民党の凋落には同一の原因がある。国会に出ずマスコミにばかり出る議員、誰もがバットを振り回す政治
  • パフォーマンス監督・長嶋茂雄の罪と罰。千里の馬はあれど一人の伯楽は無し。
  • すべての政治は「負けない」ことからはじまる。弱小チームには、負けない戦い方しかない。

どれも、野球の例えが非常にうまく機能している話です。「負けない政治」と言われても、何の事やらわかりませんが、「野中さんが仕掛けた自民党と公明党の連立は、野村さんが阪神監督時代に行った守備力強化と同様、長期的に負けないことをねらいとしていた」と言われれば、容易に理解できます。

それから本書の魅力はもう一つ。野中さんが下した歴史的な政治判断の一端が垣間見えることです。いわゆる「加藤の乱」の背景、野中さんが政治家を引退した本当の理由などです。これは現役の政治家だったら出来ないことでしょう。アメリカでは、引退した政治家に、そうした「歴史」を語らせる専門のジャーナリストがいるそうですから、日本にもそういう波がやってくるのかもしれません。

若い頃の私は、自分の興味の外あるいは理解の外の事象は、意識の埒外においてしまう傾向がありました。けれども編集者として経験を積み、商品企画者としてなんとか一人前の仕事が出来るようになってきたかなと思えるようになった近頃では、一見まったく異なるもの同士の共通性が非常に気になります。見方を変えれば、興味の範囲が広がったと言うことかもしれません。

その意味で、本書で語られる共通性は、実に参考になりました。巻末解説を書いておられる江本孟紀さんが見出した、二人の共通性も楽しめます。気楽に読める割に、ちょっと深い部分もある、そんな一冊でした。

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