« チーム・バチスタの栄光(下) | トップページ | 日経サイエンス(2010年7月号) »

2010年6月16日 (水)

サカモト

「サカモト」山科けいすけ:著(新潮文庫)

山科けいすけさんは、私の大好きなマンガ家の一人です。いつも愛読しているのは、「ビッグコミック」誌連載の「C級サラリーマン講座」。会社を舞台に、暗すぎる人、明るすぎる人、小心すぎる人、尊大すぎる人など、極端な人物ばかりが登場するギャグマンガです。

本書はその幕末版ともいうべき作品と言えるでしょう。幕末を彩る有名人たちに、山科流の強烈な解釈が加えられて、見事なギャグマンガに仕上がっています。

タイトルにある「サカモト」とは、表紙イラストをご覧いただければお分かりの通り「坂本龍馬」のこと。しかし希代のギャグマンガ家である山科さんが、龍馬をまともに描くはずがありません。
勝海舟に弟子入りしたことや、薩摩と長州を結びつけようとした事など、基本的な設定は踏まえているものの、その中身は本当にめちゃくちゃです。

Manga

たとえば左の「仇」と題されたマンガをご覧下さい。見にくいので概略を記します。

坂本龍馬が沖田総司と歩いていると、向こうから殺気を放った浪人がやってきた。龍馬は、沖田を「キミに用みたいぜよ」と突き放し、自分を守ろうとする。しかし、実際は龍馬が相手。浪人は「きさまの大ボラに乗せられて”むう大陸”を探しに行った弟たちは…」と、恨み言を口にする。ところが龍馬は、浪人が恨みを言い終わらないうちに、ピストルであっさり射殺。その上「何言っちょるのか、さあっぱりわからんぜよ。のう沖田クン」と言う始末。

一般的な龍馬像とは大きく異なり、人の話は聞かないし、かなり卑怯だしいい加減な人物ですよね。その上、新撰組の沖田総司もえらく太っています。一般的には美男子とされる彼を、本書では大食漢でやたらに血を吐く三枚目として描いています。さらに、龍馬が「むう大陸」というホラを吹いたのも、師匠の勝海舟の教えという設定で、彼が説く「開国」は、「異星人に対して日本を開く」という荒唐無稽(オカルティック)な考え方。なのに、龍馬は、「だからこそ」勝海舟を師と崇めます。

いかがでしょうか。このぶっ飛び方impact。彼らばかりでなく、西郷隆盛や大久保利通、高杉晋作や桂小五郎、近藤勇や土方歳三ら、幕末の有名人は、山科さんの手にかかれば、全員変人になってしまいます。そして変人として立派にキャラが立っているのです。私は通勤電車の中で本書を読んだのですが、何度も吹き出してしまいました。私としては、放火魔として描かれている高杉晋作と、「価値判断の基準がすべて薩摩芋か金玉」という西郷隆盛がお気に入りです。

一般にギャグマンガ家や四コママンガの作者は、短命と言われます。実際、アイディアが枯渇して引退に追い込まれたり、別の道に転身したり、失踪したり、不幸にも命を絶ったりした作家が数多く存在するようです。そんな中で、山科さんは、長年にわたってハイレベルなギャグをずっと創作し続けています。これはすごいことだと思いました。

本書の帯には、ギャグで「※学習・受験の役にはたちません」と書いてあります。ただ、ちょっとだけ真面目に考えると、「国語のできる子どもを育てる」にて工藤さんが提唱されていた「コボちゃん作文」(マンガ『コボちゃん』を使った作文指導)には、かなり適したマンガではないかと思いました。本書だけでなく山科さんの作品は、ストーリーや登場人物の性格付けが明確なので、文章にしやすいからです。

いずれにしても、良くできた娯楽作品です。最近笑いが少ないとお感じの方に、強くお勧めします。

|

« チーム・バチスタの栄光(下) | トップページ | 日経サイエンス(2010年7月号) »

まんが」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/48592758

この記事へのトラックバック一覧です: サカモト:

« チーム・バチスタの栄光(下) | トップページ | 日経サイエンス(2010年7月号) »