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2010年6月15日 (火)

チーム・バチスタの栄光(下)

「チーム・バチスタの栄光(下)」海堂尊:著(宝島社文庫)

物語のいいところで「続きは次回」となるのは、テレビやマンガの世界ではよくあることですが、小説の場合は珍しいケースではないでしょうか。そうでもないかもしれませんが。

少なくとも本作の場合、上下巻の2分冊となっていることは、エンターテインメント性を増していると思いました。その理由の前に、下巻表4記載のあらすじをご紹介しましょう。

東城大学医学部付属病院で発生した連続術中死の原因を探るため、スタッフに聞き取り調査を行なっていた万年講師の田口。行き詰まりかけた調査は、高階病院長の差配でやってきた厚生労働省の変人役人・白鳥により、思わぬ展開をみせる。とんでもない行動で現場をかき回す白鳥だったが、人々の見えなかった一面が次第に明らかになり始め…。医療小説の新たな可能性を切り拓いた傑作。

正直に申しますと、当初この上下巻を手にしたときは、「この厚さ(薄さ)でなぜ上下巻? 商売上手?」と思いました。しかし実際読んでみると、この「厚生労働省の変人役人・白鳥」の登場を際立たせるためには、この上下巻の構成が適切であると思えます。音楽でも舞台でも、こうした「変調」は、適切になされたとき大きな効果を生みますから。本書ではそれが生きているなと思いました。

とはいえ変人を変人として描くのはなかなか大変なことです。その人物にリアリティがあることはもちろん、思考や判断に変人としての一貫性がなければなりません。そしてなにより、魅力が備わっている必要もあります。海堂さんの描く白鳥は、そうした必要要件を完全に満たしていると思いました。これがデビュー作というのですから、本当に驚きです。

下巻では、この白鳥と、万年講師の田口によるコンビが活躍します。上巻ではうだつの上がらないイメージだった田口が、白鳥というトリックスターを得ることで、輝きを増し、すべてが明らかになる、という構成は実に見事です。
実際、「このミステリーがすごい」の選考会で、本作を大賞と決定するのに数十秒しかかからなかったと、本書の解説に書かれています。それもうなずけるような内容と構成でした。

そしてすべての謎が解けたとき、上巻で読者に提示された「問題」と「違和感」の原因が明確になります。そう、「問題」と「違和感」は、本質的には解決されないのです。この未解決性こそが、医師としての海堂さんなりの主張というか、警鐘なのでしょう。海堂さんは、「死因不明社会」という本を書いています。日本では死因がきちんと追求されないことが多く、それが様々な問題を生んでいるのだそうです。作品にことさらテーマ性を求めることは無粋なことではありますが、海堂さんが医師の傍ら執筆を続ける理由はここにあるのだと思いました。

物語の解決とともに、真のテーマ性が浮かび上がってくる、巧みな構成の作品です。「メディカル・エンターテインメント」というのは、「犯人捜しが目的の本じゃないよ」という主張の表れなのかもしれません。
いろいろな意味で興味深い一冊でした。

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