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2010年7月28日 (水)

ルポ貧困大国アメリカII

「ルポ 貧困大国アメリカ II」堤未果:著(岩波新書)

最近は本当にたくさんの本が出版されていますから、読む本を選ぶのが一苦労です。それゆえ新聞や雑誌の書評欄や、書評ブログは貴重な情報源となっています。

本書は、私が毎日閲覧させていただいている書評ブログにて、堤さんの著書が何度か取り上げられていたことから購入しました。評を読んでからの購入ですから、内容はある程度想像していたものの、実際に読んでみると、想像以上の内容でした。

本書の中身は、その目次に端的に表れているので、まずご紹介します。

  • 第1章 公教育が借金地獄に変わる
  • 第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
  • 第3章 医療改革VS.医産複合体
  • 第4章 刑務所という名の巨大労働市場

まず第1章は、主に大学教育を受けるために必要な教育ローンによって、生活が崩壊している人たちが増えているという話。アメリカでも、ホワイトカラーの仕事を求めようと思ったら、最低大学を出ていなければならないということで、多くの人が大学で学ぶことを目指します。ところが、以前は無料だった州立大学の学費が有料となり、1990年以降は、毎年10~15%値上がり。これに追い打ちを掛けるのが、サリーメイと呼ばれる教育ローン。もともと公的なサービスだったのに、いつの間にか民営化され、「年利18%、借り換え不可、消費者保護法の対象外」というむちゃくちゃなサービスになってしまったのだそうです。しかも、いったん債務不履行になると、その債権はたちまち債権回収業者に転売され、暴力団のような人たちからの取り立てに合うことになるのだとか。
これは、日本で少し前まで良く見聞きされたサラ金地獄と同じ構図です。借り換え不可というさらに悪い構造まであることを考えると、それ以上(以下)の状況かもしれません。

豊かな生活を得るために大学入学

高額学費→教育ローン(公的制度のふりをして勧誘し、実は高金利)

ローン返済のため日夜低賃金のアルバイトに精を出す

学業が滞り結局退学するが、借金は残るため、入学前より貧しい生活に

本書では、こうした悪夢のような現実が、教育現場だけでなく、社会保障制度や医療制度、刑務所の労務環境にも及んでいることを描き出しています。にわかには信じられないような惨状です。私たちの感覚だと、「こうした現状を政府はなぜ放っておくのか」となりますが、これについても強欲な資本家と、その献金を受けた政治家の癒着が原因であると堤さんは述べています。
これがもし本当のことであれば、なんとも救いがたい、暗い話です。構図としては日本のサラ金地獄に似ていますが、これはもっと悪質な構造を持っているように感じます。一部の強欲な資本家たちが、公益サービスを装いながら大衆から搾取するという構図ですから。

本書を読みながら気になったのが、よく言われる「アメリカの今は、日本の3年後」という俗諺です。実際、大学の学費は日本でもどんどん上がっていますし、社会福祉の水準は下がっています。医療制度こそ、アメリカと違って皆保険が実現していますが、それとて超高齢化が進む現状にあっては、どうなるものか分かったものではありません。本書に描かれた悲惨な現状が、日本の未来でないことを切に願います。

そして願うばかりでなく、そうさせないためには、こうした本などから情報を仕入れ、適切な対応を考えながら、一票を投じて行くことが必要なのでしょう。その重要性は、これまで以上に高まっていると思います。その意味でも、堤さんの今後の仕事からも目が離せません。

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コメント

TBさせていただきました。
粗雑な感想でお茶を濁すだけの私と違い、しっかりとポイントをまとめていらっしゃるので、いろいろと内容など振り返ろうとする際には活用させてもらっています。
しかしながら、本当に「サラ金地獄と同じ構図」ですよね。アメリカンドリームというものに輝きがあればあるほど、そこには"超ハイリスク"が前提としてあると言われたら、はあ、としか言いようがありません。

投稿: 時折 | 2010年7月31日 (土) 15時22分

時折さん、コメント&TBありがとうございました。
時折さんのブログは、いつも書籍購入の参考にさせていただいております。
さて、本書の描き出す世界ですが、「ひどいなぁ」と思う一方で「本当かなぁ」という部分がぬぐえません。なぜなら、まともな経営者なら経済成長にいわゆる中間層の消費活動が必須であることを知っているはずだからです。
ここに書いてある事柄が、多くのアメリカ国民の真実であるなら、アメリカは成長とは無縁の国になってしまいます。しかしそんなことはないでしょう。
一部の悲惨な事柄を、ことさらに拡大して見せている本、という疑念がぬぐえないのは、やはり政治家や経営者側への取材が足りないからではないかと思いました。

そういう意味で、「堤さんの今後の仕事からも目が離せ」ない、と書きました。

投稿: むらちゃん | 2010年7月31日 (土) 18時16分

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