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2010年7月12日 (月)

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?

「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」林總:著(ダイヤモンド社)

以前ご紹介した「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、すでに社会現象と言えるほどのベストセラーになっています。「もしドラ」という略称も定着しました。「経営学」しかも、「ドラッカー」ということで、普通なら敬遠される内容を、うまいこと物語仕立てにしたのが奏功したのでしょう。

本書は、そうした手法のビジネス書の走りと言えるのではないでしょうか。ここで取り上げられているのは「会計学」。2006年の発売当時、物語仕立ての会計学入門書として、結構話題になったように思います。

アパレル会社ハンナでは、社長が急逝し、それまで従業員だった社長の娘、由紀が、急きょ社長に抜擢される。それまでデザイナーだった由紀にとって、会社経営は右も左も分からない上に、引き継いだ会社の台所は火の車。その上取引先の銀行が、債権回収にやってくるし、役員のほとんどは、由紀に批判的な態度を取っていた。困った由紀は、母の勧めで公認会計士の安曇にコンサルタントを依頼する。

タイトルから、本書は、食べ物屋さんの会計学の話かと思って読み始めると、主人公はアパレル会社の新社長でした。「じゃ、なんでこのタイトル?」と思って読み進めると、ほどなく理由が分かりました。安曇が由紀にレクチャーする場所は、いつも食事の場なのです。フレンチレストラン、中華レストラン、寿司屋、蕎麦屋、由紀の母親の作る料理…などなど。

たいていの人は、レストランに行ったことがありますから、そこで行われている仕事の中身がある程度想像できます。しかも、アパレル会社よりも、仕入れから販売までの時間が圧倒的に短いですから、モデルにしやすいのです。ですから、本書では、1つの章で1つの話題について解説する、というスタイルを取っており、その解説のために、必ず食べ物屋が取り上げられています。飲食店の経営や料理が出来上がるまでをモデルにすると、仕入れ・在庫・キャッシュフロー・販売管理・利益率など、会社の会計を構成する要素の考え方が具体的で分かりやすくなるのです。これはなかなか巧みな説明手法だと思いました。

とはいえ、安曇と由紀のやりとりだけでは、会計の専門的なところは解説できません。そこで本書では、各章の終わりに必ず解説のコラムが付いています。なかなか親切な構成だと思いました。ただ、実際に自分で数字をいじってみないことには、本当のところは分からないのだろうとは思いますが。

Bsc

本書の最も大きなポイントであり、会計に興味のない方でも参考になるだろうと思われるのが、最後の章で示された「バランススコアカード」という会計の考え方です。左は、本書に示された実例(写真が汚くてすみません)。安住のアドバイスで由紀が打ち立てた「働く女性を応援する服作り」という経営ビジョンに向かって、「財務の視点」「顧客の視点」「業務の視点」「学習の視点」から経営を見直すための方策が書かれています。人材育成と製品開発とマーケティング、財務管理は、往々にして別次元のこととして捉えてしまいがちですが、こうしたカードに一元的に書いてみると、それぞれ有機的につながっているのだということが分かります。

こうした考え方は、会社経営のみならず、部署運営や学校経営にも応用できると思いました。部署運営においては、得てして経営から降りてきた部分的な目標(売上・コスト削減・製造数など)をそのまま部署の目標にしているところがほとんどでしょう。けれどもそれでは社員一人一人が経営課題を認識できません。こうしたカードなどで、経営目標に直結した部署目標を設定すべきと思いました。

また学校では、「明るく元気な子の育成」といった、達成の可否が容易に測れない目標(経営ビジョン)を掲げるところが少なくありません。これをもう少し具体化することで、職員研修や教材の検討、保護者対応などが変わってくると思います。
「お金の計算である財務会計ですら難しいのに、人間の学習のバランスシートを策定するなど無理」という意見もあるでしょう。当然です。しかし本書によれば、会計でさえ方法は一様ではないそうですから、チャレンジする価値はあるのではないでしょうか。

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