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2010年7月26日 (月)

ビッグイシューの挑戦

「ビッグイシューの挑戦」佐野章二:著(講談社)

「ビッグイシュー」とは、ホームレス支援を目的に創刊された路上販売専門の雑誌です。このブログでも129号142号をご紹介させていただきました。
その雑誌を発行している会社の代表である佐野さんが、立ち上げの経緯や苦労、現状の成果と問題点、思い描く未来などについて書いたのが本書です。帯には、それがとても端的に示されていました。

ホームレスが売る「奇跡の雑誌」
「百パーセント失敗する」と言われた「ビッグイシュー」を日本に根付かせた、その軌跡を描く!

ビッグイシューを初めて読んだとき、私は次のような想像をしました。

  • この雑誌は売るのも大変だけど、販売員集めも難しいはず。立ち上げた人は、使命感と実行力が並外れた人に違いない。
  • 「路上で売る」という特性を意識した編集になっている。立ち上げた人は、きっと雑誌編集のプロに違いない。
  • 月2回刊だというが、印刷して全国に配送するだけでも相当なコストがかかる。きっとビッグイシューの本部、イギリスの支援を受けてスタートしたのだろう。

以前書籍編集をしていたこともあり、本屋雑誌を読むとき、どうしても作り手側にも意識が向いてしまうのです。あまり良くない癖だとは思っていますがcoldsweats01

ところがこれらの想像は、すべてはずれていました。佐野さん自身は、当初ビッグイシューの発刊には絶対反対の立場だったし、書籍編集の仕事は、まったくの素人だったのだそうです。そして何より、イギリス本部からの金銭的支援を受けていないということに相当驚きました。しかも現在300円のこの雑誌、発刊当初は200円で売っていたというのですから。

当初は反対していた佐野さんが、雑誌作りの素人でお金もないのに、なぜビッグイシューを発刊したのか、発刊できたのか、ということに関しては、ぜひ本書をお読みいただくとして、本書の白眉は、ホームレス問題の本質を明らかにしているところにあります。特に「英米化するホームレス問題」と題された問題提起は、非常に重要だと思いました。以下に簡単に要約してご紹介します。

これまでホームレスの多くは50代後半以上だった。彼らは暴動も起こさず犯罪にも手を染めず、おとなしく生きてきた。これは日本だけの奇跡である。
しかし若年層のホームレスが増えている現代、彼らが犯罪やクスリに手を出さないという保証はない。彼らがもし罪を犯し、それを社会やマスメディアが猛烈にたたくとき、社会は確実に滅びの悪循環に陥る。
そうさせないためにも、できる限り早く、彼らが将来のことを考えられる環境作りを整える必要がある。

そう「英米化」というのは、ホームレスが、治安悪化を引き起こす存在へと変化するという意味です。このあたり、実際にイギリスやアメリカのホームレスに直面してきた佐野さんの言葉は、非常に説得力がありました。「若者の社会復帰に大切なのは、金銭面だけでなく、自尊感情」ということで、ホームレスによるサッカーの世界大会やダンス公演などの取り組みも紹介されていました。やはり、人は誰かから信頼されているからがんばれるのです。

本書を読んでみて、やはりここでも日本の子どもたちの自尊感情の低下が問題なのだと思いました。要するに教育の問題なのです。むろん、学校教育だけではなく、社会教育、家庭教育を含めてのことになりますが。
若者をホームレスにさせないためには、この問題にしっかりと目を向け、まずは実態をよく知ることが大切だと痛感しました。その上で、彼らの心の居場所を確保すること。難しいことですが、みんなが安心して暮らせる社会を継続するためには、政治家や役人に任せるのではなく、私たち一人一人が考え、行動することが大切なのでしょう。

私の場合は、これまでたまにしか購入しなかったビッグイシューを、できるだけ毎号購入する、という形から始めようと思います。

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