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2010年8月 4日 (水)

文章がうまくなるコピーライターの読書術

「文章がうまくなるコピーライターの読書術」鈴木康之:著(日経ビジネス人文庫)

ベストセラーが出ると、その2や関連本、類似本が出るのが出版界の常識。本書も、以前ご紹介した「名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方」の「姉妹版」だそうです。
けれども本書が書店に並んでいたとき、正直購入をためらいました。映画もそうですが、続編というのは、がっかりする確率が高いように感じていたからです。さらにこのタイトルにある「読書術」という言葉。「読書の方法なんて教えてもらってもなぁ」なんて思ってしまいました。

それでも購入したのは「文章がうまくなる」という部分に惹かれたからです。ダメもとの気持ちで読んでみることにしました。まずは目次をご紹介します。

  • まえがき
  • 第1部 コピーライターは手紙のつもりで書いている
  • 第2部 コピーライターはこう書き、こう読む
  • 第3部 書き出しは読み出しである
  • 第4部 面白くなければ読んでもらえない
  • 第5部 書物も読者も小宇宙飛行である
  • 第6部 読書家の夢は比べ読みの長旅である
  • 第7部 好きならばこそ見つめ、調べ、読み、書く
  • 第8部 読み書きトレーニング 自由参加型読書のすすめ
  • あとがき

まず「まえがき」の内容には賛同しました。「遅読、楽読のすすめ」と題して次のようなことが書かれていました。

昨今、速読が成功法のように言われますが、1年に何百冊もの本を読むのは単なる徒労です。なぜなら、書き手はゆっくりじっくり考え、思い入れ深く書いているからです。そういう書き手と対等につきあうのが読書です。

確かに、速読・多読を売りにする有名経済評論家や、超大手外資系IT企業の元社長がいます。何冊か読んではみたものの、彼らの言説に、私はまったく賛同できませんでした。書いているごとに主張の整合性がないことがあるのは、多読による弊害ではないかとすら思えます。鈴木さんの言うように、「著者とゆっくり向き合う」べきなのです。そうでないと、せっかくお金を出して本を買った意味がありません。

ところが肝心の冒頭部分、第1部~第2部あたりは、あまり面白くありませんでした。前作と似たような主張ですし、第一広告コピーの読み解きでは読書術とは言えません。「こりゃ、失敗したかなあ」などと思いつつ読み進めると、第3部~4部あたりから、だんだん面白くなってきました。「コピーと小説の書き出し比較」「コピーと推理小説の共通点」といった考察は、興味深く読むことができました。

そして本書の白眉は、第6部。源氏物語の現代語訳の比較です。いずれも冒頭部分の表現を引用しながら、その特徴を書いています。取り上げられているのは、与謝野晶子・谷崎潤一郎・円地文子・瀬戸内寂聴・上野榮子・橋本治・アーサー・ウエイリー(佐復秀樹:訳)。古今東西の作家が、源氏物語をどう読み、どう書いたかについてそれぞれ考察が加えられています。これは、非常に面白い内容でした。それぞれの作家ごとに表現が異なるのは、原典の解釈はもちろん、作家が想定する読者が違うからでしょう。そのあたりが、実に鮮やかに説明されていました。
この部分だけでも本書を買う価値があると言えるのに、第6部は、さらにハムレットの日本語訳の比較も取り上げています。こちらは、文語的な表現が多いので少々歯ごたえがあることと、ハムレットの基本的な構成を知らないと楽しめないので、「文章の味わい方高座・上級編」といったところでしょうか。いずれにしても、翻訳も含め、文章の味わい方という点で学ぶことの多い第6部でした。

「読書術」ということで、ノウハウ的なイメージを抱いて読み始めた本書ですが、実際は「コピーライターは、文章をこう読んでいる」という解説本でした。これによって文章がうまくなるのかどうか、若干(かなり?)疑問が残りはするものの、少なくとも読み方・味わい方の参考にはなったように思います。いや、もしかすると、文章がうまくなるというのはつまり、こうした読み方ができるということそのものなのかもしれません。

高校の国語の授業がこんな内容だったら、もう少し国語が好きになっていたのになあ、なんて思ってしまいました。読むことと書くことについて考えさせられる一冊です。

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