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2010年8月27日 (金)

ウチのシステムはなぜ使えない

「ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学」岡嶋裕史:著(光文社新書)

2008年に出版された本書は「情報システムに不満を抱いている人は多い。」という一文で書き出されています。私も、少し前までIT業界に身を置いておりましたので、この認識は現在でも非常に正しいと思っています。学校の職員室にも、先生の事務用PCが導入され、校務がシステム化され始めているそうですから、同じような感想を持つ先生方も少なくないのではないでしょうか。

みんながよかれと思い、しかも大金を掛けて構築するシステムが、どうして便利なものにならないのでしょうか。岡嶋さんは、本書のアプローチについて、次のように説明しています。

現状における情報システムへの不満というものは、技術を議論するずっと以前の段階に根っこを持っていると思うのだ。ニーズとシーズに違いがあることは多くの人が百も承知で、工業製品を送り出す側もそれなりに熟慮して製品を作っている。なのになぜ、情報システム技術者(SE)が何かを作ると、顧客が欲しくないものができあがってしまうのだろう。本書は、情報システムの開発に関わる要素のうち、技術ではなく、SEに着目する。SEを取り巻く職務環境や、SEの仕事の進め方を知ることで、この疑問を解いていこう。

SEが何かを作ると、顧客が欲しくないものができあがってしまう」というのは、またずいぶん失礼な記述です。実際岡嶋さんもその自覚はあるようで、本書のあとがきで「本書をSEの人が読んだらと思うとぞっとするほど」と書いています。しかし物事を説明するのに、極端な表現手法を採るというのは、割合一般的な方法であり、客観的に見て、本書においてそれは成功しているように見えました。

まず、本書の最大の功績は、一般の方からは見えにくい、IT業界の技術者の役割と位置づけを分かりやすく示したことでしょう。

  • 「SE技術者」ではなく「SE技術者」
  • 技術者には職能別に厳然としたヒエラルキー(階層)が存在する
  • 技術者の役割には大別して開発系と運用系があり、両者は互いに仲が悪い
  • 管理職は部下管理が難しい上に、最新技術の習得も欠かせない

これらは業界の人間にとってはある意味常識となっていますが、一般の方には目から鱗の話も少なくないのではないでしょうか。とかくこの業界は、質問を許さないような空気があり、的外れな質問でもしようものなら、唇の端を微妙にゆがめて、深いため息の一つも吐かれてしまいそうですから。

こうしてIT業界の技術者を概観できたところで、システムを依頼する側がSEとどのように仕事を進めればよいのかが解説されています。具体的には、設計するための業者選び、システム設計のための話し合い手法、要件定義への関わり方、SEとのコミュニケーション手法などなど。私自身は、システムの見積手法に「○人月」というやり方以外に、「ファンクションポイント法」「COCOMO法」というやり方があるのを初めて知りました。
また開発手法にも、一般的な「ウオーターフォールモデル」の他に、「プロトタイプモデル」「スパイラルモデル」が、それぞれの長所と短所とともに紹介されていました。ウオーターフォールモデルでは、なぜ途中で仕様変更できないのかが分かります。

こうした内容面の有益さの他に、本書では比喩が巧みに使われているなと感じました。いくつかご紹介しましょう。

  • (運用の仕事が)どのくらい過酷かといえば、自動販売機をうまく製造できなかったので、中に人を入れて見かけ上動いているように見せかけようとするのに匹敵する
  • 顧客とIT企業の関係は、すれ違う父娘のように「お互いちゃんとやっているんだろうな」とか「住んでいる世界が違うから、あまり口出ししない方が上手くいく」だのやっている間に、修復不能な間隙を生産し続けている
  • オブジェクト指向だからといって、必ずしも優れているわけではない。模型を作るとき、粘土(=従来型)を使うかレゴ(=オブジェクト指向)を使うか程度の差でしかない

巻末には、システムの発注企業とそれを受けたシステム会社の悲劇(喜劇)が、同時並行的に進む読み物が掲載されています。かなり極端な記述になってはいますが、「ウチにはこうしたことは絶対に無い」と言い切れる企業は存在するかなあと思いました。
いずれにしても、IT業界を入口に仕事を引き受けて進めるということについて、いろいろと考えさせてくれる一冊でした。

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