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2010年8月 6日 (金)

父として考える

「父として考える」東浩紀・宮台真司:著(NHK出版生活人新書)

雑誌や新聞の書評で本書を見かけ、早速購入しようと書店で本書を見たとき、正直「う~ん」と思いました。帯がカラーなのはよいとして、そこに写っているのは、お世辞にもフォトジェニックとは言えないおじさん二人。しかも二人とも微妙な表情。そもそも世代も主張も異なる二人が、対談など、しかも「父として」語ることなどできるのでしょうか。

とはいえ、論客としての東さんには少なからず注目していたこともあり、よく中身を見ずに購入してしまいました。結果的にそれは非常に正しい判断でした。

本書は便宜的に教育書カテゴリに設定させていただきましたが、議論されている内容は社会論だったり子育て論だったり広範にわたっています。まずは目次をご紹介しましょう。

  • 第1章 親子コミュニケーションのゆくえ ──家族を考える
  • 第2章 子育てを支える環境 ──社会を考える
  • 第3章 均質化する学校空間 ──教育を考える
  • 第4章 コネ階級社会の登場 ──民主主義を考える

この中で、表だって「父として考え」ているのは、第1章のみです。あとは、社会や教育や政治について、東さんと宮台さんの持論が展開されています。このように書くと、なんだか本書に対して私がネガティブなイメージを持っているように感じられるかもしれませんが、そうではありません。むしろ、私としてはラジカルな論客として知られるお二人が、きちんと、おそらく一般の父親よりもより多く深く子育てに関わっておられるという事実に驚かされました。

「実際に子育てにかかわらずとも、文章なんだからそれなりに書けるだろう」とおっしゃる方がいるかもしれません。しかし、それは違います。積極的な育児参加をしていなければ、決して書けないような表現が随所に見られるからです。私自身、子育てには相当関わってきただけに断言できます。それはたとえばこんなことです。

  • 僕はむかしから(中略)子どもができたら、何歳でしゃべるのか、どのように心が発達していくのか、いろいろ観察しようと思っていました。しかし、実際に娘が生まれたら、まったくなにもできない。記憶できない。(中略)子どもが何歳からしゃべったか、何歳におむつが取れたかと人に尋ねても、みなけっこう記憶が曖昧です。あんなに苦労して子どもを育てているのになぜかなあと、むかしから疑問だったのですが、いまは理由が分かります。
  • 宮台独身時代に使っていた近所の行きつけの店は、ファミレスと比べればどうしても使い勝手が悪いですね。でも、そういう店にも子連れに配慮してくれるところがあって、僕たちのような者の目には断然光を放ちます。

東さんの言葉は、私の実感とも一致します。ですが、おそらく母親の場合は、少し違った感想を持つのではないでしょうか。いずれにしても、父親として子どもが生まれてからずっと積極的に関わっているからこその言葉だと思いました。
宮台さんの言葉は、「奥さん不在の子連れお出かけ」を経験していないと書けないでしょう。今はずいぶん良くなりましたが、私が子育てしていたとき、男性用トイレには、子どもを座らせておくような椅子やおむつ替えの台など皆無でした。とても苦労したことを思い出しました。

こうしてしっかりと子育てをしている二人だからこそ、第2章以降で語られる、社会・教育・政治についての主張が説得力を持ちます。娘の子育てにも参加しないでおいて、社会がああだとか、コミュニティがどうだとか主張しても空疎なだけですから。新しいタイプの論客が出てきたなと思いました。
第2章から4章はどれも面白く読めました。いくつか気になった言葉があった中で、最後に、第3章にて教育の本質について東さんが語った言葉をご紹介しましょう。「親」を「先生」に置き換えても十分成立する言葉だと思いました。

親は子どもにじつにたくさんのことを教えます。けれども、子どもが本当に学ぶのは、僕が教えている内容ではなくて、僕の形式、僕の無意識なんですね。そしてそれは親自身にとってはもっとも見えないものであったりする。だからこそ逆に親にとっては、子どもは勝手に育って行くようにしか見えない。そこで本当は「親の無意識と子どもの無意識の共同作業」が起きているのだと思います。

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