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2010年9月17日 (金)

だれかのいとしいひと

「だれかのいとしいひと」角田光代:著(文春文庫)

月刊MOEという雑誌をご存じでしょうか。同誌のWebサイトの説明によれば「絵本を応援する月刊誌」なのだそうです。教科書編集者をしていたときは、たまに購入して読んでいましたが、正直言って男性が購入するには、少し勇気の要る雑誌でした。毎度鮮やかな色彩とかわいいイラストに彩られた表紙は、まさしく女の園、という感じだったからです。

本書は、その雑誌に掲載された作品を中心とした短編集。角田さんの作風と、MOEの雰囲気があまり一致しないように感じられたので読んでみることにしました。もしかして、角田さんのかわいい作品が読めるのかもしれないと期待したのです。

転校生じゃないからという理由でふられた女子高生、元カレのアパートに忍び込むフリーライター、親友の恋人とひそかにつきあう病癖のある女の子、誕生日休暇を一人ハワイで過ごすハメになったOL……。どこか不安定で仕事にも恋に対しても不器用な主人公たち。ちょっぴり不幸な男女の恋愛を描いた短篇小説集。解説・枡野浩一。

本書には8編の作品が収録されており、前半の6編がMOEに掲載された作品です。表4に掲載されている上記のあらすじは、そのうちの4編の概要を示しています。なんだかわけのわからない人たちが、わんさか登場しそうなあらすじです。さらに作品タイトルも、それぞれなかなか魅力的でした。

  1. 転校生の会
  2. ジミ、ひまわり、夏のギャング
  3. バーベキュー日和(夏でもなく、秋でもなく)
  4. だれかのいとしいひと
  5. 誕生日休暇
  6. 花畑
  7. 完璧なキス
  8. 海と凧

絵が中心の月刊誌掲載ということもあってか、ほとんどが20ページ程度の短い作品でした。それでも、登場人物たちはそれぞれきちんと存在感を示しており、それぞれ凝った筋立てになっているので、楽しく読むことができます。いずれの作品も、カテゴリーとしては恋愛小説となるのでしょうけれど、あまりべたべたしていない、それでいてドライでもない書きぶりに好感が持てました。

ただ、そうは言うものの、個人的には「ぜひ、お読みください」と、素直に言えない気持ちもあります。ラーメン屋でざるそばを食べた感じ、とでも申しましょうか、「おいしかったのだけれど、今ひとつ納得が行かない」といった気持ちです。それは、角田作品特有の毒、あるいは悪意が足りないこと。そうした、いわば「角田フレーバー」をこよなく愛する読者にとっては、若干物足りなく感じるのではないでしょうか。少なくとも私にはそう感じられました。
もちろん「絵本を応援する雑誌」に掲載する作品としては妥当であるということもできます。本書で初めて角田さんの作品を読んだ、という方ならおそらく満足されることでしょう。なんだか、ロック母に続き角田さんの作品を連続して紹介し、連続して悪口を書いているようで申し訳ないのですが、期待度の高い作家さんだけに、こんなご紹介となってしまいました。

最後に、本書の解説がとてもよかったのでご紹介します。書いておられるのは、歌人の枡野浩一さん。恥ずかしながら私はこの方を存じませんでした。「──馬鹿」と題された解説は、吉祥寺のレストランを舞台に、まるで小説のように進みます。枡野さんと角田さんの関係、角田さんの人となり、本書の作品解説が、レストランの情景描写の合間に巧妙に織り込まれているのです。もしかすると角田作品の文体模倣(パスティーシュ)を意図したものかもしれません。いずれにせよ、読んでいて楽しくなる解説でした。

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コメント

おはようございます。
またまたTBいたしました。
角田さんへの微妙な思い、何となくわかります。
私は、半ば"恋は盲目"のように角田さん作品を偏愛してしまったところがあり、これも、すべては思い出せませんが、いい味わいに感じていました。
いろいろな角田作品を思い出させてもらいどうもありがとうございます。

投稿: 時折 | 2010年9月18日 (土) 07時02分

時折さん、コメントありがとうございました。
私の場合は「恋は盲目」になりきれず、「あなたのこの部分が好き」という、極めて手前勝手な愛し方のように思います。時折さんの境地に達したいと思いました。

投稿: むらちゃん | 2010年9月18日 (土) 08時27分

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