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2010年9月15日 (水)

はじめて哲学する本

「はじめて哲学する本」藤原和博:著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

藤原さんの著作は、これまで何冊かご紹介して参りました。いずれも「情報編集力を身につけよう」という主張をされています。複雑になった現代においては、正解のない問題に直面する事が多いため、より悪くない選択肢を選び出す力が、情報編集力だというのです。

本書はいわばその実践編と言ってもよいでしょう。提起されているテーマ(本書の帯によれば、人生の「ツボ」と「コツ」)は、全部で25。その問題について、藤原さんが子どもたちに語りかけるという構成になっています。いくつか選んでご紹介しましょう。

  • まえがきにかえて「哲学」について お葬式では、なぜみんな黒い服を着ているの?
  • 結婚について どうして結婚したの?
  • 職業について 将来、どんな会社に入ればいい?
  • 信頼とクレジットについて どうして勉強しなければいけないの?
  • 倫理について なぜ、廊下は走ってはいけないの?
  • 便利さとクリティカル・シンキングについて 学校ではなぜ掃除機で掃除しないの?
  • 神さまについて 神さまは、なぜみんなを助けてくれないの?
  • 戦争とイジメについて 平和がだいじと言うけれど、どうして戦争が終わらないの?

目次に記載されたこれらのテーマは、なかなか魅力的です。私がもし、これらの問いを中高生から受けたとしたら、果たしてうまく応えられるでしょうか。「う~む」といったきり考え込んでしまうか、多弁を弄して結局伝わらないかのどちらかでしょう。その点藤原さんは、実に上手に説明しています。
たとえば、葬式の喪服が黒いことについて、実はあまり歴史がないことを示した上で次のように「解説」しています。

大人が常識として日常当たり前のようにしていることも、じつは、いろいろな裏事情があって、そうなっていることがわかる。つまり、大人が「常識」を押しつけてきたときには、一度疑ってかかることが必要だと言うこと。だから、ボクはこれからキミたちに、「上手な疑い方」を教えてあげようと思う。

「大人を疑え」などと中高生に勧めるのは、いかがなものか、と眉をひそめる向きもあるでしょう。けれども、自分は子どもではないという強い気持ちをもちながら、さりとて大人ほど汚くもない、と考えるのがこの時期の子どもたちの特権です。そうした意味では、子どもたちの意識に寄り添った説明であるように感じました。
他にも、「ネットで検索」や、「ゲームで言えば」など、一歩間違えば「また、俺らのこと分かったふりしちゃってさ!」などと反発をうけそうな話題も、巧みに織り込んで分かりやすく説明しているのが印象的でした。実際に子どもたちの反応を見たわけではないので、あくまで想像でしかありませんが。

しかし──

問いの立て方が巧みで、説明も上手となれば、非常に満足度の高い本となるはずなのに、なぜかしっくりきませんでした。それゆえ、読後しばらく紹介記事がなかなか書けずにいたところ、街場のメディア論を読んだとき、その原因がはたと分かりました。内田さんは、「医療や教育など成果がゆっくりとしかでない業界は、プロに任せ、急激な変化は避けるべき」と主張しているのに対して、藤原さんはビジネスの論理を導入して、今の時代に合わせた教育改革を推進すべき、と主張しています。もちろん、どちらが正しいというつもりはありません。けれど、少なくとも私がすっきりしなかった理由は、私が今現在、内田さんの言説の信者になりつつあるからなのだと分かりました。

こうした視点で本書と街場のメディア論を比べてみると、他者認識や自己認識の点で差異と共通点があります。これは私にとって興味深い発見でした。読書の楽しみはいろいろありますが、こうした主張の比較やすりあわせができるのも、その大きな一つだろうと感じました。

そして最後にもう一つ疑問があります。「哲学」って、こうやって大人が子どもに解説(説明)する学問なのでしょうか。以前「よいこととわるいことって、なに?」という本をご紹介しました。これは、義務教育で哲学を扱うというフランスの本でした。ここで取り上げている問いの立て方は、いずれも答えのでないものでしたから楽しめましたし、大人と子どもが、答えのでない問題に対峙して、うんうんうなる、ってすてきだなと思ったものです。とはいえ、考える土壌の少ない日本では、このように分かりやすい解説から入るというのも十分ありだとも思います。どちらのアプローチがよいのか、当分うなって考えてみます。

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