« 子どもが夢中で手を挙げる算数の授業 | トップページ | きんこん土佐日記1 »

2010年9月 1日 (水)

ナイチンゲールの沈黙

「ナイチンゲールの沈黙(上)(下)」海堂尊:著(宝島社文庫)

以前「チームバチスタの栄光」を読んだとき、その続編が出ているということを知り、読んでみたいと思いました。主人公である田口医師はもちろん、その相棒(保護者?)である藤原看護師、天敵である変人役人の白鳥など、キャラの立った登場人物ばかりでしたから、続編が面白くないわけがありません。

上巻あらすじ(表4)
第4回「このミス大賞」受賞作で300万部を突破した大ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の続編が登場します。大人気、田口・白鳥コンビの活躍再び! 今度の舞台は小児科病棟。病棟一の歌唱力を持つ看護師・浜田小夜の担当患児は、眼の癌――網膜芽腫の子供たち。眼球摘出をせざるをえない彼らに心を痛めた小夜は、患児のメンタルケアを不定愁訴外来担当の田口公平に依頼し、小児愚痴外来が始まった。
下巻あらすじ(表4)
手術前で精神的に不安定な子供たちのメンタルサポートを、不定愁訴外来担当の田口公平が行なうことになった。時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納達也警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫・水落冴子と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。読者を魅了する、海堂尊のメディカル・エンターテインメント。

2冊を一気読みして抱いた感想は、「読者とは、なんと強欲な生き物だろうか」ということでした。正直にもうしまして、前作に比べて、私には満足度が低かったのです。

物語の骨格とそれにより浮かび上がるテーマ、登場人物の設定、その行動の整合性とリアリティなど、どれも申し分ありません。特に、子どものリアリティには舌を巻きました。今回は小児病棟が舞台と言うことで、それぞれ重篤な病気を背負った小学生、中学生、高校生が登場します。物語の展開上、非常に重要な役割を演じるだけに、この設定に説得力がなければ台無しですが、悟ったような大人びた部分と子どもらしさが同居する、彼らの特徴を非常にうまく描いていました。「厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔」と子どもたちのやりとりも楽しく読めました。

お話しとしてはとても良くできているのに、なぜ満足できなかったのでしょう? 理由を考えてみました。
まず、「続編」という位置づけに頼ってしまったことにあるのではないでしょうか。「続編」とはいっても、この作品から読む読者もいるのですから、そのあたり最低限の配慮は必要です。しかし、前作で謎を解くカギとなった「パッシヴ・フェース」「アクティブ・フェーズ」の説明は不十分ですし、兵藤医局長の三枚目的ふるまいも、前作を読んでいないと理解できません。特に兵藤医局長のくだりは、本当に必要だったのかとさえ思えます。連続作品なのに、すべて単独で成立させていた、「あらしのよるに」シリーズとは対照的でした。

次に謎解きのわくわく感に乏しいことです。この話の流れなら、いっそのこと犯人を読者に明かしてしまって、謎解きを白鳥や田口、警察庁の加納に任せてしまえばよかったのではないでしょうか。「犯人には解剖の知識有り」という点が、当初読者をミスリードし、最後で謎解きのカタルシスを生む、というのが著者の作戦でした。けれどもそれはどうにも上手く機能しなかったように感じます。これを上手に機能させようと思ったら、「模倣犯」までとは言いませんが、関連人物のもう少し詳細な(丁寧な)描き込みが必要だったのではないでしょうか。

最後に、これが最も大きいと思いますが、第2弾に対する期待の大きさがあります。本当にエンターテインメントとしては良くできていますし、前作さえ読んでいなければおそらく満足していたことでしょう。しかし、読者はどうしても前作以上の内容を期待します。前作同様のテーマ「死因不明社会への提言」は、今回も明確でしたし、舞台設定も申し分ないものでした。けれどもそれが上手に料理されていたかというと、少々疑問です。

と、勝手なことばかり書き連ねて参りまして、つくづく読者とは勝手なものだなあと感じます。自分では書けもしないくせに、よくもまあ偉そうに書くものですcoldsweats01。一方で、自分の読後感が不満足だったとき、それを分析してみるのはなかなかよい経験だったなと思いました。これまでは、少々不満足があっても、良いところだけを見て記事を書いてきただけに、課題を挙げて書くことは、勇気が要るなあと実感したからです。

海堂作品の中で、このシリーズはまだ続いているとのこと。今後も引き続きチャレンジしてみたいと思います。

|

« 子どもが夢中で手を挙げる算数の授業 | トップページ | きんこん土佐日記1 »

小説・文学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/49247700

この記事へのトラックバック一覧です: ナイチンゲールの沈黙:

« 子どもが夢中で手を挙げる算数の授業 | トップページ | きんこん土佐日記1 »