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2010年10月15日 (金)

99・9%は仮説

「99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方」竹内薫:著(光文社新書)

失敗学」を読んで以来、本棚の肥やしになっていた本をこの際読んでみようと引っ張り出してきたのが本書。発売された2006年当時は、結構話題になりました。これも途中まで読んで、そのままにしてしまった本です。
今回改めて読み直してみると、読んだときの記憶がよみがえりました。「飛行機はなぜ飛ぶのか、科学では説明できない」という書き出しは、なかなか衝撃的で、引き込まれてしまったので、よく覚えています。同時に、前回読むのを止めてしまった理由も思い出しました。

それは、主張の視点がまちまちだと感じたからです。
本書のテーマはタイトルにある通り、「99.9%は仮説」、つまり確定した真理などない、ということです。その説明として、飛行機の話題のすぐ後に、ガリレオによる地動説の話題が展開され、当時ガリレオの発見を取り合わなかった学者たちが、いかにそれまでの常識に凝り固まっていたかが述べられています。その主張自体は納得できるものの、よく考えてみれば、ガリレオが提唱し、現在広く信じられている宇宙観だって、仮説に過ぎないはずです。なのに、ガリレオを否定した学者の批判を、現在の学説をもとに展開しているのは、矛盾しているように見えました。
その後に展開されている、ロボトミー手術の話題も同様です。現在の医学的見解を元に、「ロボトミー手術は副作用の大きい治療法」と述べています。これも、雑学としては面白いですが、それだって断定できるのだとしたら、99.9%は仮説って言えないんじゃないの? という気になります。
そんなことを考えているうちに、なんだか読み進める気持ちが萎えてしまったのでした。

けれども、今回読み直してみて、そうした違和感はほとんどありませんでした。それは、やはり竹内さんの著作である「もしもあなたが猫だったら?」で紹介されていた、思考実験という考え方を理解したからではないかと思います。
つまり、本書は、「科学はすべて仮説で成り立っている」というテーゼを示した本ではなく、「ものの見方、考え方をちょっと変えてみませんか」という思考実験の入門書なのでしょう。そう考えれば、何の矛盾もありません。それどころか、自分の凝り固まった考え方を見直すのに適した参考書と言うこともできます。それまで常識と思われていた説が、簡単にひっくり返る、それも180度ひっくり返ることがある、という事例が満載なのですから。

とりわけ面白いと思ったのは、「役割理論」という考え方と相対性理論の関係。本書での説明を要約してみます。

われわれは無意識にその人間の人格をひとつに決めつける傾向があります。「あの人は○○な人だ」「そんな人だとは思わなかった」などいうのは、その典型。けれども、役割理論では、多重人格はあたりまえの考え方。会社、家庭、仲間内など、所属する場に応じて、だれでも無意識に人格の変更を行っています。だから場によって対象の見え方が違ってくるのです。

自然現象が決めつけられないのと同様、ひとりの人間もまた一様ではなく、場に応じた相対的な存在だという指摘は、なるほどと思いました。そしてこれが、アインシュタインの相対性理論を理解するのに重要な考え方である、という指摘も。この二つの理論がどう関係するのか、という点はぜひ本書をお読みください。

私がこの部分にいたく心動かされたのは、この説明が、自分のキャラ設定に悩む中高生を励ます言葉に使えるのではないかと思ったからです。「私って、○○な人だから」「それって、□□さんのキャラじゃないよ」など、他者視線と自意識の狭間で苦しんでいる彼らこそ、こうした考え方が必要なのではないでしょうか。どれほど効果があるのかは疑問ですが、こうした理系っぽい説明が向いている子たちが必ずいるような気がします。

今の常識は仮説に過ぎない
      ↓
今のキミの苦しみは、仮説(仮のもの)に過ぎない

こんな説得ができるような気がするのです。本書には、そのために必要な具体的な事例、仮説がひっくり返った事例がたくさん掲載されています。これらは、先生が授業中に行う雑談のネタとして、とても良いのではないでしょうか。子どもたちの心をほぐすのに、きっと役立つように思えます。

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99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方光文社このアイテムの詳細を見る 今回は、竹内薫『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』を紹介します。本書を読めば、科学は完璧なものでなく、仮説だらけであるということが、科学の事例を通してわかります。 本書は、具体例の選び方がうまくて、著者の意見がすっとわかりますね。科学や常識でさえも時代や場所によって変わるし、いつ覆されるかわからないから、いつも常識に対してなぜという問いかけが必要である。つまり、みんなが言っていることについて、いち... [続きを読む]

受信: 2010年12月25日 (土) 03時15分

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