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2010年10月18日 (月)

小川洋子対話集

「小川洋子対話集」小川洋子:著(幻冬舎文庫)

出版界には、「対談は安易な出版企画」という考え方があります。有名な人を二人呼んできて話をさせれば、それなりに書籍として成立するからです。著者としても、書くよりは話す方が気楽ですし。
しかもやっかいなことに、「安易=つまらない」ではありません。むしろ面白い本が多いくらいです。このブログでも、「対談・往復書簡」というカテゴリを設けるほど、多数取り上げました。まあ、要するに私は対談が好きなのですcoldsweats01

本書の魅力は、「小川洋子さん」と「対話」という、ある種のミスマッチにあります。寡黙なイメージのある小川さんが、だれと、どんな話をするのでしょうか。期待に違わず、とても面白い本でした。

対談について、冒頭小川さんは次のように書いています。

一体、どこの誰がいつ”対談”という仕組みを考え出したのでしょう。私にとってこれほどスリリングで、緊張感に満ちたお仕事はありません。約束の日時が近づくと、いつも逃げ出したい気持ちになります。日ごろから敬愛し憧れている方々(しかも多くの場合が初対面)との、シナリオのない一発勝負。そんな恐ろしいことが自分に務まるとは、とても信じられないのです。

ですよね。小川さんと比較するのはおこがましいですが、私も雑誌や新聞の対談企画で似たような経験をしました。対談はある種のライブですから、「あ、今の質問は、○○に変更してください」とか「今の回答を××に修正してください」といった依頼は、基本的に成立しません。辻褄が合うように文言を変更していったとしたら、まるで読み応えのないものになってしまうでしょう。
にもかかわらず、小川さんは、対話相手として、かなり難しい方々を選ばれています。目次を引用してみましょう。

  • 田辺聖子*言葉は滅びない
  • 岸本佐知子*妄想と言葉
  • 李昂+藤井省三*言葉の海
  • ジャクリーヌ・ファン・マールセン*アンネ・フランクと言葉
  • レベッカ・ブラウン+柴田元幸*言葉を紡いで
  • 佐野元春*言葉をさがして
  • 江夏豊*伝説の背番号「28」と言葉
  • 清水哲男*数学、野球、そして言葉
  • 五木寛之*生きる言葉

この並び順は、対談の時系列ではありません。よく考えられて配置されているなといった印象です。
まず田辺さんとの対話では、小川さんは主に読者(ファン)の立場です。田辺作品に見られる、人間描写の秘密、男女観、人生観を上手に引き出していました。私も一時期田辺作品に傾倒していただけに、とても興味深く読むことができました。
台湾の作家である、李さんとの対話では、国の違いによって、当然ギャップがあるだろうと思われる部分に共通性があったり、同じ島国として共有しているであろう海の認識に大きな違いがあったりしているところに感動しました。戒厳令下の台湾に育った李さんにとって、海は軍隊が常駐する恐ろしいところであり、そのイメージが今も続いているのだそうです。

この中で、もし最も面白かった対談を1つ挙げよと言われたら、詩人である清水哲男さんとの対談を挙げます。対談タイトルには、「詩」と言う言葉がまったくないものの、「博士の愛した数式」を話題の中心にしながら、詩歌と数学の共通点について話しています。これが非常に示唆に富むものでした。同時に、「博士の愛した数式」のセルフレビューといった意味合いもあります。この作品、私はブログ記事で「私の博士への愛」と感想を書きましたが、正直、独善的な読み方だったかなと思っていただけに、それがある意味正解だったと分かって、少し嬉しくなりました。

もちろん、他の対談も実に楽しく読めます。本書は、小川さんのファンなら必読書、言葉について興味を持っている人なら、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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