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2010年10月13日 (水)

失敗学のすすめ

「失敗学のすすめ」畑村洋太郎:著(講談社文庫)

40歳の教科書を読んだとき、畑村さんの考えに触れました。その中で心に響いたのは「失敗という名のワクチンを接種しよう」というフレーズでした。私たちはどうしても失敗をネガティブなことととらえてしまい、消してしまいたい、あるいは隠しておきたい、と考えがちです。けれども畑村さんは、「失敗を分析することで、失敗を未然に防ぎ、失敗から人を成長させることができる」と述べています。

なるほどなあと思いながら、私の書棚に本書が放置されていることを思い出しました。数年前に購入し、途中まで読んだところでそのままにしてあったのです。こうやって「積ん読」本の存在に改めて気づけるのも読書の楽しみの一つでしょう。これを機会に再度読んでみることにしました。

久々に本書を開いてみると、しおりの挟み具合やページの折り曲げ方から、途中まで読んだ痕跡が確かに残っていました。しかしながらその部分、再読してみても、まったく記憶に残っていません。内容がつまらないわけでも、文章が難しいわけでもないのに。改めて、当時の読書のいい加減さに気づかされました。

さて、それはともかく失敗学です。乱暴にまとめてしまえば、本書の主張は「失敗を分析しそこから学べば大失敗が防げるし、よい仕事ができる」ということです。これについては、おそらくだれもが首肯はずですし、「言われなくても分かっている」あるいは「もう、すでに行っている」という反応を示す方も少なくないでしょう。けれども、分析の元になる「失敗情報」には、次のような特徴があるので注意が必要と言い、第3章で次のような項目を挙げて解説しています。

  • 失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する
  • 失敗情報は隠れたがる
  • 失敗情報は単純化したがる
  • 失敗原因は変わりたがる
  • 失敗情報はローカル化しやすい
  • 客観的失敗情報は役に立たない
  • 失敗は知識化しなければ伝わらない

「分析した」と思っても、その情報はすでに、実際より減衰していたり、変化していたり、単純化していたりする、というわけです。間違った前提をいくら分析しても効果はありません。本書では、そうした失敗情報の性質について、具体的事例を挙げながら解説しています。これらの指摘に共通しているのは、「本当は、失敗情報が変質するのではなく、それに関わる人間が変えてしまうのだ」ということです。失敗を見つめると言うことは、人間を理解するとに等しいということなのでしょう。
実際、失敗の記述方法や分析の仕方を具体的に示した部分の解説は、失敗学というよりは思考法についての文章です。書籍のタイトルは「失敗に学ぶ、創造的思考法」などにした方がよいのでは、とすら思いました。

それともう一つ本書で重要なのは、失敗と日本の風土・文化の関係です。とかく日本においては、「失敗=悪」ですから、なんでも成功したことにする風潮があります。その傾向は、特に官公庁や大企業に強いと、畑村さんは書いています。
この部分を読んで、私は来年度の小学校を皮切りに、順次変更となる学習指導要領のことを考えました。これまでの改訂サイクルを早めたわけですから、そこには現状への強い問題意識、つまり現状はよくないという失敗の認識があったはずです。けれど、そこに失敗の分析があったようには見えません。現行指導要領の何が問題で、なぜ変更したのでしょうか。
たとえば総合的な学習は、時間数が減ります。普通に考えれば「失敗したから縮小」というように見えますが、決して失敗ではないと言います。「失敗ではないが他とのバランス上減らすことにした」という説明は、衰退して行く企業がよくやる手です。その場しのぎの言い訳にしか見えません。
どなたかの詩に「教室は間違うところだ」というのがありました。優れた先生の学級では、今日の失敗が明日の糧になっています。なのに、それを束ねる文部行政には、「失敗」はありません。教育施策に「追加」はあっても、「削減」がないと言われる理由は、まさにこれでしょう。「街場のメディア論」で指摘されていた「最終的な責任を引き受ける生身の個人がいない」という問題は、失敗学の問題意識とまったく同じだと思いました。

畑村さんは、IT全盛の現代だからこそ、「現地」「現物」「現人」が大切なのだと言い、失敗学の根本をなす考え方として次のような学力観を示しています。

その人が意欲を持って現場に足を運び、そこで現物を直接見たり現場にいる人の話に紳士に耳を傾けなければ物事の本質は見えない。(中略)そのように行動している人だけが、どんな状況にも柔軟に対応できる本当の知力、本当の知識といったものを体得できるのではないだろうか。

これはまさに、総合的な学習の時間が目指した力と同一ではないでしょうか。すぐれた経営者たちも、その著書の中で似たようなことを述べています。教育やビジネスに限らず、およそ人の営みには、すべて失敗があるのだから、きちんと見極めて次に生かすべき、という本書の呼びかけは、かなりぐっときました。
あらゆる人の業務改善に役立つ一冊だと思いました。

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