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2010年10月27日 (水)

こころと脳の対話

「こころと脳の対話」河合隼雄/茂木健一郎:著(潮出版社)

河合さんの対談本は、数多く出版されており、いつもその示唆に富んだ話に感銘を受けています。中でも「村上春樹、河合隼雄に会いに行く」は、私にとってのベスト1です。村上さんの作品の中でもっとも好きな、「ねじ巻き鳥クロニクル」が主たる話題になっているというのが、その主な理由ですが。

本書はそれに比べると、文字数も少なく、気軽に読める内容になっています。しかし、内容が薄いということではありません。本書の帯には、うまいキャッチコピーが書いてありました。
 「脳」は「悩」を救えるか!?

河合さんと茂木さんの対談は、全部で3回行われたようで、本書もそれに合わせて、3部構成になっています。「第一回」の内容は、一言で言うなら、心理学と脳科学の立ち位置の確認、それから日米の研究スタンス(考え方)の違いについてです。

  • 箱庭療法で重要なのは、解釈よりも全体の認識。しかしアメリカでは無理にでも言語化し、「科学的」に考えようとする。
  • 行動療法も、アメリカでは、できるだけ「科学的(再現性がある)」に考えようとする。しかし実際の現場では、必ず人と人との関係性が入ってくる。「科学的」と「関係性」の両方をやらねばならない。
  • 欧米の考え方は、一神教に基づく「中心統合型」。日本は、複数の神がいて中心がない「中空均衡型」。これからは、この互いに矛盾した両方の考え方でやっていく必要がある。

よく「心理学は科学ではない」と言われますが、河合さんとすれば「科学であるし、科学でない」ということなのでしょう。「論文を書くために研究をしているのではない、人類に貢献するためにやっているのだ」というような矜持を感じます。ここに賛同して、茂木さんから「相対性理論の論文は誰からも引用されていない」という話題が出され、なるほどなと思いました。「引用されなきゃ無価値」とばかり、1つの物差しだけで価値判断しようとする学会に対する、うまい批判です。「中心統合型」オンリーではダメなのです。

第二回の対談では、茂木さんが河合さんの研究室を訪れ、実際に箱庭療法を体験します。この、相手のフィールドに出かけていって対談する、というスタイルは、茂木さんお得意の方法のなのでしょう。日経サイエンスの連載対談でも、対談相手の職場に出向いて、いつも充実した対談をなさっていました。こういう手法も現場主義といってもよいのでしょう。たぶんそのおかげで、こんな対話が展開されています。

茂木:箱庭をやっていると、なぜかすごく気になるアイテムが出てきますね。そのアイテムを見ているときの脳活動と、そうじゃないときの脳活動を比較して、どこが違うか、というのをまずやるべきでしょうね。
河合:そういうの、やりたいですね、一緒に。箱庭でそういう研究をすればおもしろいこと、いっぱいあると思うんです。

この部分だけ抜き出してしまうと、科学万能主義の考えに見えてしまいますが、そうではありません。科学的アプローチ「も」おもしろい、ということを述べています。心の働きは、確かに科学的に扱えない部分があるけれども、科学的に調べたら面白い分野が確かにある、ということでしょう。この話題に続けて、河合さんが「そういうのを調べてみたいという自分と、もう楽隠居したいという自分とがいる」と述べているのが印象的でした。

そして圧巻は第三回の対談。「『魂』を救う会話」と題されたこの対談では、河合さんのカウンセリングポリシーのようなものが語られています。カウンセリングの際は、相手の「魂」を見るようにしているのだというのです。
私たちは相手の話を聞くときに、話の内容はもちろん、容姿や表情に引きずられ、そこに意味を見出そうとします。一方、河合さんはそうしたことを一切せず、ひたすらその人の魂を見ようとするのだそうです。その姿は、一見すると何も見ていないようで、冷たい人物に見えるといいます。しかし河合さんは、そのとき「『何もしない』ということを全力で行っている」のであり、非常に難しく疲れる作業なのだとか。ううむ、ちょっと難解です。

ここで語られていることの本質は、きっと私は理解していないことでしょう。けれども人間の心の働きやものの見方、考え方について、新たな視点を得ることはできました。また一冊、愛読書が増えた思いがいたします。

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コメント

こんばんは。
この本を振り返りながら、懐の深い大人の知見が、今の日本に失われているような気がしてきていました。そして、この場合の「大人」ということばにこめたニュアンスは、「非=アメリカ的」という感じ?
まだまだ読んでいない本があるのが不幸中の幸いです。

投稿: 時折 | 2010年11月 3日 (水) 19時00分

時折さん、コメントありがとうございました。
「非=アメリカ的」というのは、確かに言い得て妙ですね。もしかすると「非=欧米的」かもしれませんが。
白か黒かを決めないと、何か言ったことにならない欧米の言語と比べて、日本語は、そのあたりを曖昧にしても何か言ったような気分にさせることができる、という意味で、精神的なものを扱うのに適した言語なのかもしれません。

投稿: むらちゃん | 2010年11月 3日 (水) 23時02分

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