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2010年10月29日 (金)

鹿男あをによし

「鹿男あをによし」万城目学:著(幻冬舎文庫)

書評を参考に本を購入する場合は別として、書店での本選びというのは、なかなか難しいものです。新書の場合は、目次を読めば内容が想像できるので、ある程度確信を持って買うことができます。一方、小説の場合、目次はまるで役に立ちません。そこで、作者、タイトル、増刷回数を参考にします。加えて、文庫の場合だと、表4記載のあらすじ、どんな人が解説しているか、をヒントに選んでいます。

本書の場合、やはりこの奇妙なタイトルに惹かれました。ネット語風に解釈すれば、「鹿男@奈良」ということでしょう。「奈良で男が鹿に変身する?」ということで表4のあらすじを読んでみました。

大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはずだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声で鹿が話しかけてくるまでは。「さあ、神無月だ―出番だよ、先生」。彼に下された謎の指令とは? 古都を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー!

なるほど、気軽に読めそうな小説です。しかし「救国ストーリー」とは何でしょうか。意味が分かりません。若干不安になり、解説の部分を見てみると、なんと俳優の児玉清さんが書いておられました。
解説を読むのは文庫の楽しみの一つです。「おいしいものは最後に食べる」派の私としては、購入前に解説を読むことは、まずしません。けれども硬派の読書家で知られる児玉さんの解説とあっては、興味が止められず、つい冒頭を読んでしまいました。

小説の面白さは、時々刻々膨張を続ける宇宙のように新たなる未知の世界へと読者を誘う。

おお、1行目からこれかぁ、と感動しました。NHK-BSの「週刊ブックレビュー」など読書番組での語り口とまったく同じです。「いいぞ~」と思って読み進めると、直後に驚愕の表現がありました。

そんな想いにとらわれたのが、本書「鹿男あをによし」の爆発的な面白さに狂喜したときだった。世に比類無き面白さ、と敢えて言いたいのも、これまでのどの小説ともテイストの違う、独自の分野を切り開いた新しさにある。

児玉さんって、こんなに極端な表現を使う人だったでしょうか。「驚喜」ではなく「狂喜」ですからね。しかもべた褒め。その褒めっぷりは、さらに続きます。

歴史を踏み分け、重層の夜を切り裂き、幽玄のはざまに紡ぎ出された青春物語は知的で奇想天外。愉快で、可笑しくて、滅茶面白く、謎の深さにも心奪われるエンターテインメント性にも優れているばかりか、ほろ苦くて、甘く切ないロマンでもある。読み終えたとき、僕は清々しい気持で空を眺めたものだ。

たとえば私が本書の感想として、こんな文章を書いたら、たぶんみなさん白けてしまうでしょう。表現も整っていないし、具体性もありません。けれどもこれを書いたのが児玉さんであるということを考えると、それは確かにそうなのだろうなと思わせる説得力があります。この整わない、修飾過剰な表現もおそらくわざとでしょう。それくらい心が乱された小説なのだということが伝わってきます。なにしろ、12ページにも及ぶ解説なのですから。
おかげで安心して本書を購入することができました。

内容については、確かに期待通り面白かったです。物語の謎解きの鮮やかさはもちろん、「うまいなあ」と思える表現が随所に見られました。たとえば剣道部の試合シーンと、クライマックス部分の描写。極めて映像的な表現がされている上に、スピード感があるので、心地よく読むことができます。
さらに随所に挿入される、ちょっとしたユーモアも秀逸です。主人公「おれ」が赴任したときの様子が、某有名小説のパロディになっていますし、人間の言葉を話す鹿の好物がポッキーという設定になっています。ポッキーを食べながら、鹿が人類の存亡に関わる重大な話をする姿を想像すると、笑ってしまいます。

今年の奈良は、平城遷都1300年祭で盛り上がっているそうです。本書を読んで奈良に出かけたくなりました。明るく、元気になれる一冊です。

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