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2010年11月 1日 (月)

日経サイエンス(2010年12号)

「日経サイエンス2010年12月号」(日本経済新聞出版社)

今月号は、大特集として「『終わり』を科学する」というテーマが掲げられていました。宇宙の終わり、生命の終わり、資源の終わりなど、様々な「終わり」の話題で紙幅の大半を費やしています。大特集というだけのことはあります。
そんな中で、もう一つ重要な特集が掲載されていました。ノーベル化学賞の話題です。

受賞のポイントになった「クロスカップリング反応」という用語は、報道でずいぶん目にしました。受賞者の一人である、鈴木章さんの名前を取った「鈴木カップリング」という名称も使われていましたから、本誌の記事を読むまでは、てっきりこの反応作用は、今回受賞した3名が発見したものだと思っていました。けれども「クロスカップリング反応」は、実は約40年も前に東工大の山本明夫助教授(当時)によって発見されたのだそうです。その後多数の研究者によって改良が加えられ、今回の3名により、産業界で安定的に利用できる技術に高められたのだとか。「鈴木カップリング」も、その派生技術の一つだったのです。

記事には、そうした研究者の系譜の詳細と、第一発見者山本さん(現東京工業大学名誉教授)へのインタビューが掲載されています。ノーベル賞受賞研究が生み出された経緯と、世界の化学研究の中で日本の研究者が果たしてきた役割がよく分かりました。同時に、受賞に浮かれることなく、先人の威徳を明らかにしようとする編集姿勢は素晴らしいと思いました。それがよくわかる記事の一部を紹介します。

パラジウム触媒の発見からクロスカップリング反応の創出、そして鈴木カップリングの登場という流れを見ると、その進歩のかなりの割合を日本人研究者が担ってきた。出発点の研究が日本でなされたうえ、日本の化学研究者は昔から交流が盛んで、論文になる前の情報も研究会などで活発に交換されてきた。そうした切磋琢磨の中から、さまざまな反応が生み出されていったと考えられる。

ノーベル賞の話題では、科学雑誌らしく、他に生物学賞と物理学賞の受賞者と対象になった研究の概要について解説されていました。ちょっと笑ったのが、今回物理学賞を受賞したガイム博士について紹介したコラム。博士は2000年にノーベル賞のパロディ版と言うべき「イグノーベル賞」を受賞しているのだそうです。両賞の受賞というのはどれくらい例があるのかわかりませんが、面白い話題だなと思いました。

今月号は、こうした小ネタに面白い話題が多いのが特徴です。「確立済みと思われた陽子のサイズについて、疑問を投げかける研究結果が出た」では、常識とされていることでも疑えばそれなりに結果が出るものだなあと思いましたし、「医療行為を科学の手法で定量化する研究に取り組む」という話題では、とかく問題になる治療行為の困難さと医療点数の不整合に一つの光が見えたような気がしました。こうした定量化の取り組みは、教育活動でも必要ではないかなあと思います。
そのほか「人工光合成が人類の未来を創る」では、この分野の研究者が「若者よ、世の役に立つこの研究へ!」と呼びかけています。呼びかけとはまた変わった記事だなと思ったら、これがなんと、科学技術振興機構の提供による広告記事でした。
さらに、科学技術に対する日米欧の意識差を読者アンケートによって調査した記事も興味深く読むことができました。特に昨年WHOが宣言したパンデミックについて、欧州で信用する人がダントツに少ないのは、「宣言に関わった科学者がインフルエンザワクチンの製薬会社と不快つながりがあった」という報道があったからだとか。この報道、なぜか日米では黙殺されたのだそうです。

小ネタが面白いということばかり書いていると誤解を受けそうですが、肝心の大特集も素晴らしい記事ばかりです。「終わり」ということに関して、以下の9つの視点で書かれています。

宇宙の時間の終わり・人類文明の終焉・水資源の枯渇・種の絶滅・失われる文化・老化・人の死・土に還る・石油資源の枯渇

時間の終わりという考え方は、理解力不足のため正直イメージできませんでしたが、どうもそういうのが起こりえるという情報だけでも楽しく読めました。いずれも図版や写真がすばらしかったです。
新書や文庫でも800円、900円するものが珍しくない昨今、これだけのクオリティとボリュームのものが読める本誌は、本当にお買い得だと改めて思いました。

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コメント

こんばんは。日経サイエンスの詫摩と申します。12月号をここまで読み込んでいただけて嬉しいです! むらちゃんさんの元にいった12月号は幸せ者です。ありがとうございます。

ノーベル賞とイグノーベル賞の両方を受賞した人ですが,今回のガイム博士が初めてです。

イグノーベル賞の授賞式には,過去に本家のノーベル賞を受賞した研究者が多数出席します。もちろん,イグノーベル賞の過去の受賞者も参加します。遊び心たっぷりの授賞式のようですし,ガイム博士も遊び心のある方みたいですから,両方の受賞者である博士がどんなパフォーマンスをしてくれるのか(あるいはしないのか)ちょっと楽しみです。

今年,2回目のイグノーベル賞を受賞した中垣俊之先生たちの粘菌研究が大化けして,将来,ノーベル賞につながらないかなぁ〜などとも思っております。

投稿: 日経サイエンス編集部の詫摩雅子 | 2010年11月 3日 (水) 22時45分

詫摩さん、コメントありがとうございました。
まさか、編集部の方からコメントいただけるとは思ってもいませんでした。嬉しいです。
貴誌はかれこれ1年半くらい定期購読させていただいております。文系人間の私にも楽しめる、美しい図版・写真と気合いの入った記事に毎度敬服している次第です。

このブログは、「ブック」ブログなので、あまり雑誌は取り上げまいとおもいつつ、貴誌の良さを少しでも知って欲しくて、このところ連続して取り上げてます。11月号のイカロスの記事も感銘を受けました。1ファンとして、今後もよりよい誌面作りを期待しております。

投稿: むらちゃん | 2010年11月 3日 (水) 22時56分

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