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2010年11月17日 (水)

見える学力、見えない学力

「改訂版 見える学力、見えない学力」岸本裕史:著(大月書店国民文庫)

先日ご紹介した「授業の復権」にて「名著」と絶賛されていた本です。読む前は、学校の先生向けに書かれた教育書であろうと想像していましたが、必ずしもそうではありません。親向け、世間向けに書かれた部分がずいぶんあります。そして教育行政に関わる方にも。

本来教育とは、社会全体で取り組むべき事でしょう。社会の利益のためにやっているわけですから。岸本さんは、そうした意識を強く持って本書をお書きになったようで、冒頭の「改訂版まえがき」を、次のような熱い言葉で結んでいます。

まともな学力を身につけることが古い学力観だといわれても、学力の基礎としての読み書き計算の力は、能う限りすべての子どもにしっかりと身につけさせなければなりません。それは、日本と、子どもたちの未来を保障する最も現実的、基礎的な力となるのです。その道標としてこの「見える学力、見えない学力」改訂版を刊行します。ぜひご活用下さい。

これは明らかに平成4年(1992年)施行の学習指導要領の重要なファクターであった、そして現在もそうあり続けている「新しい学力観」へのアンチテーゼだと思いました。

まず第1部第1章「何のための基礎学力か」では、我が国の文教政策の歴史と、それがもたらした学力低下の過程を、現場の授業の様子とともに述べています。「だからゆとり世代は…」などと批判する人に限って、「昔はもっと勉強した」なんて言うのですが、実は結構誤解です。教育漢字だけ取ってみても以下のように一貫して増えているのです。

戦後~         :881文字
昭和52年(1977年)~:996文字
平成元年(1989年)~:1006文字

それでいて授業時数は減るわ、教科以外にやらねばならぬ「○○教育」が増えるわ、となれば、学力が落ちるのは当たり前と岸本さんは言います。そして恐ろしいのが、15年以上前に書かれたこの章の記述が、なんだか予言めいていることです。

(経済的に恵まれた層は)片やますます知的な面がプラスされ、片やさっぱり根気もやる気も奪われたまま、惨めな学力の子になっていきます。土曜の休校制が全面的に実施されるならば、いっそうひどい学力格差の分極化・双極化が促進されることでしょう。(中略)このことを明確に捉えている層は、こと学力については、民営の相応の教育機関にわが子を託すように配慮することでしょう。それは私立学校であり、権威ある学習塾ということになります。

先日、センター試験の結果が正規分布にならなくなってきたという報道がありました。ここで言う「学力の分極化」が、ついにデータとなって現れてきたのです。また現在大都市において、私立小学校・中学校の人気はとどまるところを知りません。まさに岸本さんが15年前に指摘した通りの状況になっています。

第1部では、以下見えない学力を身につけるための生活習慣について具体的に述べられています。ここでは、遊びやしつけ、読書や親との会話など、見えない学力を身につけるために親や教師に求められる態度を具体的に示しています。主張の根拠として示されているデータや、その読み取り方法については、かなり怪しい部分もあるのですが、示された方法には説得力がありました。きっと長年実践されてきた実績は、理論を上回るということなのでしょう。

Mienai_gakuryoku_2

その上で、第1部の最後に、これまで示してきた「ことば」「読書」「遊び」「しつけ」など見えない学力の要素を、左のような図にまとめています。「見えない学力と思考機能」と題されたこの図は、岸本さんの主張する見えない学力と思考の関係性が一覧できるという点でよくできているなと思いました。
これを基盤として、第2部では、見える学力の身につけ方が具体的に述べられています。さすが先生だなと思うのは、それが上手く行かなかった場合の手立てまで含めて書かれていることです。それから有名な百ます計算を含めた様々な計算練習のワークシートまで掲載されています。これらは、小学校の先生にとってはかなり役立つのではないでしょうか。

私はこれまで、「これからの子どもたちに必要なのは、創造性や表現力だ」と考えていました。ですから、ドリル学習や音読・朗読も重要ですが、それ以上に話し合いや問題解決的な授業が必要だと信じていました。けれども、その考えはちょっと間違っていたのかもしれません。
たとえば野球選手は、試合だけでは上手になれません。プロでさえ毎日の基礎練習を大事にしています。アマチュアならなおのことそうでしょう。きっちりとした基礎の上に試合があるわけです。子どもたちの学習も、まさにそういう構造だというのが本書のポイントなのだと理解しました。

学力観について、大いに揺さぶられた一冊でした。小さなお子さんをお持ちの親御さんには、ぜひ一読いただきたいと思います。

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