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2010年12月13日 (月)

電子マネー革命

「電子マネー革命 キャッシュレス社会の現実と希望」伊藤亜紀:著(講談社現代新書)

書店で本書を見かけたときは、「また革命ですかsign04」と思いました。ぱらぱらとページをめくってみると、ページがグレーになっている部分があって、そこには、なにやら小説風の文章が展開しています。ううむ、怪しい。

「二匹目のどじょう感」あふれるタイトルに、際物っぽい本文。普通なら絶対買わないのに、帯にある「来るべきお金革命の驚くべき可能性をわかりやすく解説!」という文言に惹かれて、つい購入してしまいました。そしてそれは、結果的に大正解でした。

本書の冒頭、「はじめに──迫り来る『現金絶滅』の日」において、電子マネーやポイントが近年急速に普及していることを指摘した上で、次のように問いかけています。

あなたは次のことを知っているだろうか。
■電子マネー発行会社が倒産したら、あなたの電子マネーはどうなるのか?
■ポイントの価値は不変なのか? 一ポイント一円は、いつでも保証されるのか?
■ポイントをほかのポイントに交換する際のレートは、誰がどう決めているのか?

私自身、すでに毎日のように電子マネーを使っている毎日にもかかわらず、このようなことは考えたこともありませんでした。いろんなお店が発行しているポイントについても。改めて問われると、どれもはっきりとは答えられません。インパクトのある、巧みな導入です。

この導入を受けて、これらの問いについて順を追って解説するのだと思っていたら、さにあらず。各章の解説の前に、しがないサラリーマンの鈴木太郎と、その妻よし子の物語が挿入されています。ここで展開されるドタバタ劇が、その後解説される中身の中心にリンクしており、読者は問題の所在が容易に分かるようになっています。
経済の話は、単純に理屈で説明されてもイメージしにくいところがありますから、こうした導入手法は有効だと思いました。楽しく読める上に、その後の説明が、ぐっと分かりやすくなります。しかもこの物語部分のページをグレーにすることで、読者が混乱しないような配慮もありました。こうした構成の新書は、非常に珍しいのではないでしょうか。

そして本書のもう一つの特徴は、電子マネーの未来を予想していることです。「そりゃ、著者なんだから予想くらいするでしょう」と思われるかも知れませんが、著者の伊藤さんは貨幣が専門の経済学者ではありません。決済ビジネスの法務を担当している弁護士です。専門家ではないから、なのか、伊藤さんの性格なのかは不明ですが、本書で展開されている未来予想は、かなり大胆なものでした。そのあたりの内容とそれに至る経緯が、あとがきにほの見えています。その一部を紹介しましょう。

「これ以上は伸びられないくらい背のびをして、未来を覗いてみた」
執筆を終えたいま、本書にたいする自己評価はこんな感じである。当初は、電子マネーとポイントという筆者の専門分野に関する解説書をめざしていたはずが、気づいてみれば通過の本質論や、電子マネーの世界進出、果ては世界共通マネーの実現可能性にいたるまで、なんとも途方もない大風呂敷を広げてしまったものである。

電子マネーによって国家に依存しない世界通貨が出現する」という伊藤さんの予想に、妥当性があるのかどうか、私には分かりません。伊藤さん自身も、このアイディアにはいくつものハードルがあることを示しています。それでも、電子マネーに関する知識獲得の他に、現状理解がこうした未来予測につなげられる、という実例を見せてくれたという点に価値があります。当然専門家からの批判が寄せられることは容易に想像できるわけで、その勇気や覚悟はすばらしいなと思いました。

楽しく読めてためになる、浅そうで深い本。内容面も編集面も満足できました。本書は私の中で、今年の新書ベスト10には間違いなく入ることでしょう。電子マネーやポイントの未来に興味のある方には、強くお勧めします。

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