« 社長を出せ! | トップページ | 偽りのマリリン・モンロー »

2010年12月29日 (水)

デジタル時代の著作権

「デジタル時代の著作権」野口祐子:著(ちくま新書)

最近の著作権は、小さな改訂を繰り返し例外もどんどん増えているので、そろそろ勉強しなくちゃな、ということでタイトルだけ見て本書を購入しました。目次すら確認しなかったので、正直読む前はさほど内容に期待もせず、「新しい知見がひとつ得られればそれでいいや」くらいの気持でした。
ところが本書は、予想以上に(と言っては失礼ですが)実にすばらしい本でした。

素晴らしいポイントの1つ目は、問題の所在を巧みな説明で明らかにしていることです。
本書の序章では、この問題をモデル化した寓話が提示されています。寓話の舞台は架空の王国。100年前、王様は「法律改正は、貴族全員の意見一致が条件」という法律を作りますが、国の安泰には寄与したものの、法律が現在の実情に合わない部分が増えて困っている、という話です。これに続けて、次のように解説しています。

著作権法の根本問題の一つは、一〇〇年以上前に決めた法律の枠組みが古くなり、次第に今の社会で無理が生じているのに、これを変えずに維持しなければならない、と定められていることにあるのです。
では、著作権法の内容はどんなものなのか。どうしてこの王様の国のようになってしまったのか。これからどうすればいいのか。そして、これからの著作権を考えるときに、どんな視点で考えればいいのか。それを、順番に見ていきたいと思います。

著作権法について、時代に合わない部分があると言うことは、知識として持ってはいたものの、その改正ができないのは、本書を読むまでは、政府の怠慢だとばかり思っていました。けれども実は、国際条約に基づく縛りの中で、改正できない状態にあるのだそうです。この前提を知らないと、確かに著作権法の今後は考えられません。これまで、著作権関連の書籍は、割合読んできたつもりなのに、このことは初めて知りました。

2つ目のポイントは、解説が分かりやすい上に何らかの新しい知見があるということです。本書が、どのような内容を扱っているかを説明するため、以下に目次をご紹介します。

  • 序章 なぜ、今、著作権なのか
  • 第一章 著作権が保護するもの
  • 第二章 ゆらぐ著作権──その歴史と現代の課題
  • 第三章 技術と法律のいたちごっこ──間接侵害について
  • 第四章 ハリウッドが著作権の世界を動かす
  • 第五章 科学の世界と著作権
  • 第六章 柔軟な著作権制度へ──フェアユースとクリエイティブ・コモンズ
  • 終章 これからの著作権制度で考えること

たとえば、第三章では、ソニーのビデオ、Winny、ナップスターなどを取り上げながら、著作権の間接侵害について解説しています。著作権違反を助長してはいけないが、どこまでが助長になるのか、という問題は、なかなか難しい問題であると気づかされます。また、第四章では、DRM(Digital Rights Management)の功罪について、第六章では、フェアユースやクリエイティブ・コモンズの利点と欠点について公平かつ冷静に説明しています。
DRM、フェアユース、クリエイティブ・コモンズなどの用語の意味や概念は、著作権の問題や今後を考える上で、とても重要です。私も誤解していたり、正確に知らなかったものばかりでした。本書ではそれぞれについて、メリットとデメリットを具体的に示しながら丁寧に解説しています。

そしてこれらの分析が、終章での提言につながって行きます。提言には具体的なものと、概念的なものとがありますが、以下の具体的な提言が非常に心に残りました。

最終的には、自分の権利を守って欲しい人だけが著作権を登録し、その場合にだけ今のような強い権利が与えられるようにするのがいいと個人的には思っています。(中略)というのも、知的財産権を保護するということは、情報を利用する他の人の活動を制限することだからです。他人の活動を制限する権利を持つためには、それなりの努力を払ってしかるべきではないでしょうか。

特許も著作権も「知的財産権」と一括りにされることが多いのに、片方は数十万円掛けて登録する必要があり、片方は創作しただけでOKというのは、以前から不思議だなと思っていました。それに作者の没後、何十年も権利を保護する必要性って本当にあるのだろうかと思います。野口さんの上記の提案は、これらの疑問を解決する方法の一つになり得るのではないかと思いました。

この主張の妥当性はさておき、本書は、著作権の今と抱える問題について知るには、非常に適した本です。知財に関わるビジネスマンだけでなく、学校における子どもたちの創作物の著作権が話題となる昨今、先生方にもぜひお読みいただきたいと思いました。

|

« 社長を出せ! | トップページ | 偽りのマリリン・モンロー »

ビジネス書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29188/50226831

この記事へのトラックバック一覧です: デジタル時代の著作権:

« 社長を出せ! | トップページ | 偽りのマリリン・モンロー »