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2010年12月27日 (月)

社長を出せ!

「社長をだせ!―実録クレームとの死闘」川田茂雄:著(宝島文庫)

このところ、永く積ん読状態だった本の棚卸しをしています。本書を購入したのは、2003年。客先へ謝罪に出かける仕事が少なくなかったことから購入しました。

当時こうした「クレーム本」は、結構出版されていた中で、本書に決めたのは、ベストセラーだったからではありません。帯に書かれた文章が決め手でした。

不思議なものでクレームは、逃げれば逃げるほど追いかけてくるのです。「クレームからは決して逃げられない」というのが、私の実感です。私は依頼されたクレームには全力で対応してきました。「あなたじゃなくて社長を連れていらっしゃい」と何度いわれたことか。結果は百戦百勝。自分で解決できなかったクレームは一件もありませんでした。

多少クレーム処理経験のある私にとって、「自力解決できなかったクレームが一件もない」というのは、驚きでした。数件の処理に苦慮していた私と違い、著者の川田さんはクレーム処理専門だったわけですから、それは驚くべきことです。「一件もない」秘密を探るべく、期待して読み始めたにもかかわらず、本書が積ん読状態になってしまった原因は、大きく二つあります。

  • クレーム対応の実録部分に共感しにくく、教訓が得られない
  • クレーム対応ノウハウのまとめ方が不十分でわかりにくい

この手の書籍は、実話の部分を中心にしたエッセイ風の本にするか、ノウハウ中心の本にするか、どちらかしかないように思います。本書はそのどちらでもない(ある意味ではどちらでもある)ように感じられ、当時の私は「こりゃ、参考にならない」と判断して、早々に読むのを止めてしまいました。

今回読み直してみても、その思いが払拭されたわけではありません。けれども、クレーム対応に関する本は、案外こういう形でよいのではないかと思い直しました。
それは教育書の場合で考えてみると、分かりやすいかと思います。たとえば「学級通信の書き方」「事務処理の仕方」「情報機器活用のポイント」といった内容なら、ノウハウ本として容易に成立します。けれども「『ごんぎつね』の読ませ方」「速さの概念の教え方」について書くことは、なかなか難しいことでしょう。対象となる人が様々であるだけに、一般化して述べにくい上に、仮に述べられたとしても限定的にならざるを得ないからです。異論や反論もずいぶん寄せられることでしょう。
クレームの場合も同様です。事例を詳細に書けば書くほど「まあ、その場合はそうですよね」と個別の問題にされてしまいますし、一般化して書けば「相手の言う内容を真摯に受け止め、対応する」という、極めて当たり前のことしか言えなくなってしまいます。

けれどもその難しさの中にこそ、この仕事の本質があるのではないでしょうか。今回本書を読んでみて、営業マンのコミュニケーションを説いた本や、先生の発問や指示について書いた本との共通性を感じました。「自分の仕事のこの部分と似ているな」と思って読んでみると、それまで読み飛ばしていた部分でも共通性が見いだせるから不思議です。たとえば本書では、クレームが発生する場面として、以下のケースが挙げられています。

  • 信頼が裏切られたと感じたとき
  • 約束が守られないと感じたとき
  • 問題提起に対する対応が充分でないと感じたとき
  • 大きな損害を受けたとき
  • バカにされたと感じたとき
  • クレーマーに狙われたとき

この部分、初読の際は、「あたりまえ過ぎて参考にもならない」と感じましたが、我が身に引き寄せて読んでみると、案外そうでもないのです。たとえば、約束が守られないと「感じる」のは、あくまでお客さんなのに、私たちはしばしば自分の感覚でそれを判断してしまいます。コミュニケーションギャップの本質は、まさにここだと思いました。

昨年くらいまでは、自分の感覚に合わない本に出会ったとき、「こりゃだめだ」と思って投げ出していました。それが最近は、「まあとりあえず読んでみよう」「きっと何かある」と、意識が変わりました。実際、必ず何かエルモのはあります。これは、4年間ブログを続けてきたおかげでしょう。読書と、その感想を綴る作業は、こうした面でも意味があるのではないかと思いました。

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