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2010年12月 6日 (月)

ジェネラル・ルージュの伝説

「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊:著(宝島社)

本書は、「ジェネラル・ルージュの凱旋」の記事をトラックバックさせていただいたブロガーさんより紹介してもらった本です。なので立ち読みはもちろん、目次の確認すらせずに購入しました。
タイトルから、いわゆる「外伝もの」なのかなと想像していました。今風に言うならスピンアウト小説。けれども実際には、外伝以外の話題が満載の、海堂さんのサービス精神あふれる一冊でした。

『ジェネラル・ルージュの凱旋』で屈指の人気を誇る救命救急センター部長、速水の短編三部作が登場! 単行本に収録されたジェネラルの原点「ジェネラル・ルージュの伝説」に、新たに書き下ろした「疾風」と、その後の物語「残照」も収録。さらに、大幅加筆したエッセイや、自作解説で、創作の秘密を惜しみなく明かします。巻末には全作品を網羅した年表&主要登場人物リスト330&用語解説辞典付き!

以上が本書表4記載の内容紹介です。ほとんど場合、この内容とアマゾン等に記載の「内容紹介」は一致するのに、本書の場合、結構異なります。これはおそらく海堂さんが修正を依頼した結果だと想像しました。なぜそんなことを想像したかと申しますと、本書所収の「海堂尊物語」の中に、文章修正の鬼であることが何度となく記載されているからです。
通常原稿を書籍化するとき、校正段階で修正するのは、誤植や事実誤認など明らかに不適切な部分のみ。なのに、海堂さんは、ゲラが出るたびにどんどん文章を直してしまうのだそうです。さらに、単行本が文庫化される際にも。こりゃ、編集者泣かせだよな、と思っていたら、案の定、各社の編集者がそれぞれ何度も登場しています。「海堂尊物語」は、こうしたドタバタのやりとりもあり、執筆の苦しみもあり、メディアへ登場したことの顛末あり、医学界とのかかわりなど、幅広い話題が、実に楽しく書かれていました。

もちろん、本書のメインである、「短編三部作」も楽しめました。特に三船事務長を主人公にした「疾風」と、速水の後を引き継いだ佐藤を描いた「残照」は、「ジェネラル・ルージュの凱旋」を読んだ人には必読の後日談と言えるかもしれません。

一方とても複雑な思いで読んだのは、「自作解説」の章です。海堂さんが自ら自作について解説するわけですから、面白くないわけがありません。事実、「チームバチスタの栄光」の着想から白鳥というキャラクター誕生の秘話、「このミス」応募から結果を待たずに「ナイチンゲールの沈黙」を執筆した経緯、タイトル変更の逸話などが詳細に描かれ、実に面白いのです。特に、物語の枠組みを、数式になぞらえて構築した経緯は、作家や編集者を目指す人にとっては、非常に参考になる部分でしょう。こんなこと、教えてくれる作家なんていませんから。
なのになぜ「複雑な思い」で読んだのかと申しますと、私はまだ海堂ファンを名乗れるほど作品を読んでいないからです。読んでない作品の解説を読むのは、答えを見た後に試験を受けるような、なんともばつの悪い、それでいてちょっと得したような、変な気持ちになります。この先、「イノセントゲリラの祝祭」や「マドンナ・ヴェルデ」を読もうと思っていたのに、なんだかためらわれるような気持になってしまいました。

というわけで、本書は海堂作品をばっちり読んだ人には楽しく読める本であるものの、そうでない人は、読む部分を気をつけた方がよいと思います。小説を原作とした映画へのスタンスにたとえて言うなら、「映画を見てから原作を読む」という方にはお勧めですが、「原作を読んでから映画を見る」派の人にはお勧めできない本、ということができます。「場合によるよ」という方の場合は、「短編三部作」で読むのをいったん留保するのがよろしいかと。

実に面白い本なのだけれど、お勧めしにくい──本書は、そんな奇妙な本でした。

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