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2010年12月20日 (月)

電子書籍の時代は本当に来るのか

「電子書籍の時代は本当に来るのか」歌田明弘:著(ちくま新書)

秋も深まった頃から、「電子書籍用端末」と銘打った端末が各社から発売・発表されています。各社とも「電子書籍の時代はすぐそこに」というプロモーションを展開しています。私自身も、「電子書籍の衝撃」を読んだとき、その流れは必然だと思いました。実際アメリカでは、相当普及しているようですし。

けれども本書の著者である歌田さんは、大きな流れにおいて電子書籍化は「起こりえるかも知れない」としながらも、「すぐに普及」というのは難しいのではないかと主張しています。そこには、日本固有の根深い問題があるというのです。

電子書籍端末の歴史は、「電子書籍の時代が来た」というメディアの記事などとは裏腹に、期待と失望の繰り返しだった。その理由はきわめて簡単で、電子書籍端末が読者に受け入れられなかったからだ。受け入れられないのには、それなりの問題があった。そして、これから書くように、その問題の多くは依然としてそのまま残っていて、「期待と失望の繰り返しの歴史」は、少なくとも日本ではまだ終わっていない。少々まわり道のようだが、日本の電子書籍をめぐる根深い問題について理解するために、まずはそうした歴史をたどってから、いまの何度目かの「電子書籍元年」の話をしたい。

「期待と失望の繰り返しの歴史」というのは言えて妙です。ほとんどの方が記憶にないとは思いますが、日本では、何度となく電子書籍端末が発売され、世間に一顧だにされることなく敗れ去って来ました。この敗因について、歌田さんが述べていることを乱暴にまとめると次のようになるのではないかと思います。

これまでの電子書籍は、「誰に」「何を」読ませたいのかがはっきりしなかった。あるいは、「誰に」と「何を」の整合性がとれていなかった。

「そんなのマーケティングの基本じゃん」と思われる方も少なくないでしょう。実際その通りではあるものの、ここに政府の方針や補助金が絡んでくるため、話はそう単純ではありません。1999年には日本政府の補助金により既存の書籍データの電子化が取り組まれたり、2004年には中国により教科書の全面電子化が計画されたのだそうです。
とりあえずこの「官製市場」の存在が、幾度となく繰り返された失敗のポイントだったのではないか、という指摘は納得できました。こうしたある種のリスク回避措置があることによって、電子書籍は、誰に読んでもらうのかという視点が曖昧になったと言います。漫画や雑誌の大衆路線なのか、それとも少ない部数ながら絶版せずとも良い、というメリットを打ち出すのか、といったところです。ターゲットが曖昧になれば、商品企画もプロモーションも曖昧になりますから、失敗は必然だったと言えるかも知れません。

けれども本書の主張の中で印象的だったのは、上記の第1章を受けて展開されている、第2章と3章でした。
第2章「グーグルは電子書籍を買えるか?」では、Google社の特徴と世界展開を解説しながら、一時期マスコミでも大きく取り上げられた「ブック検索訴訟」について多くのページを割いています。結果的に日本の著作物は、この検索の対象外とすることで決着を見たこの問題、マスコミは「日本の著作者が乱暴なGoogleに勝った」といったニュアンスで報じていました。当時私もそう感じました。けれども歌田さんは、この事象に関して丁寧な分析をした上で、次のように評しています。

日本語の本が広く読まれ、日本への理解を深めてもらうとともに日本語文化のレベルを上げたければ開国するしかない。(中略)(ブック検索は)探し求めている本との出会いが容易になる読者はもちろん、たいていの著作権者にもメリットになる。経済的な見返りは大きくはないだろうが、少なくとも今よりは多くの人に本を知ってもらえるようになる。そうした特徴を理解されず、受け入れられなかったのは社会にとって大きな損失だった。(中略)いつまでたってもすぐれたブック検索が日本では十分に利用できず、英語圏との情報格差が開けば、そのツケは結局、日本社会全体にまわってくる。

つまり、Googleのブック検索から外れることで、世界から置いてきぼりを食らう、と歌田さんは言うのです。確かに現在あらゆる商品が、日本の国内市場だけでは立ちゆかなくなっています。検索でヒットしないということは、情報社会において「無い」と同義です。社会的損失であるという主張は、その通りだと思いました。

さらに第3章「『ネットは無料』の潮目が変わろうとしている?」も興味深い内容でした。新聞の有料化の話題や自費出版の話題などを、電子書籍の可能性を多面的に取り上げています。この中で、朝日新聞が展開しているWeb新書の話題が印象に残りました。
私たちは、電子書籍を考えるとき、どうしても既存書籍の「置き換え」で発想してしまいます。その点、Web新書は、電子書籍の特性を生かした「まったく別物」としての進化の可能性があると理解しました。それには電子マネー等によるネット上での少額決済がポイントになってきそうです。

変化・革命という前に、過去に起きたこと、現在起きていることを正確に把握し分析することの大切さを改めて感じた一冊でした。

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僕の関心  僕は、1.インターネットで何が起きているか、ということを別の視点からも眺めてみたいということ2.素人が作ったいわゆる同人誌、同人マンガなどを始めとする芸術の ... [続きを読む]

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