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2010年12月 8日 (水)

教育幻想

「教育幻想 クールティーチャー宣言」菅野仁:著(ちくまプリマー新書)

以前読んだ菅野さんの著書「友だち幻想」には、いろいろと啓発されました。その後の書籍の読み方やニュースの捉え方、わが子を含め中高生とのつきあい方が、大きく変わったように感じています。本書はその第二弾ということで、期待して手に取りました。

サブタイトルは「クールティーチャー宣言」となっていて、帯には「『立派な人を作る』は幻想です。」と書いてあります。ううむ、近年「クール」といえば、カッコイイという意味で使われることが多いですが、もしかして冷たい先生になれということ? このあたり、かなり気になります。

本書の主旨は、序章の冒頭に端的に書かれていました。

一昨年私は「友だち幻想」という本を書きました。その本では書名どおり、主に「友だち」という横のつながり(いわば「水平関係」)を中心に人間関係の問題について考えてみました。(中略)しかし当然のことですが、学校の問題を考えるためには、この水平関係のレベルだけを考えていればいいというわけにはいきません。いわゆる「上下関係」という縦のベクトルを、考慮にいれなくてはなりません。(中略)親と子、先生と生徒というような、大人と子どもの非対称な関係について、とらえ直してみようと思っています。

菅野さんはこれに続けて、「いわゆる戦後民主主義教育が、学校における上下関係の存在を過度に否定したことが混乱の原因になっている」と指摘しています。この「過度に」という部分が、本書を読んで行くときの大きなキーワードです。つまりたとえば、「学校の上下関係がよくない」といったん判断されたら、がーっと上下関係否定に傾き、「教え込みは良くない」となったら、ドリル学習が一切無くなる、といった極端化は避けましょうというのです。今まさに起きていますけどね。
白黒をはっきりさせて、一方の論調にがーっと傾く、というのは、何も教育界に限ったことではなく、近頃のマスコミの論調に顕著なようなきもします。傾いた方が楽ですし、一瞬分かりやすいですからね。

では、傾かないためにはどうするか。菅野さんは、「分析と総合(複雑でよくわからないものをいったん「文節化」し、それらを再び関連づけてとらえなおすこと)」が必要だと述べています。これは、マーケティングなどの現場では良く用いられる方法です。ある商品について考えるとき「高価⇔安価」「一般向け⇔趣味人向け」といった軸を設定して配置してみると、それまで気づかなかったことが見えてくる、といったことが良くあります。これと同じ考え方でしょう。
本書では、人間把握の「文節化」例として、「事柄指向」と「人柄指向」という軸が示されていました。

  • 【事柄指向】相手の人格に影響されずに、事実のみをクールに見ていこうという指向性
  • 【人柄指向】起こった事柄そのものよりむしろ事実の背景にある文脈や相手の人となりなどから判断しようとする指向性

むろん、どちらが優れているというわけではありません。あくまでも軸。たとえば授業記録を取る際、この2軸で取材しておくと、通知表の所見を書くとき等で便利なのではないかなと思いました。
本書では、この考え方で様々な事象が論じられています。たとえば、「イジメは「こころの教育=人柄指向』では解決しない」という項目です。反省文を書かせても、自らの心と向き合うことにはならないことが多く、むしろ感情を取り繕いやすいというデメリットがある、という主張は、具体的でなるほどと思いました。

しかし残念ながら、本書の中で、その他の部分は、正直ぐっときませんでした。「う~ん、そうだけど、じゃあ実際にはどうするの」という気持になってしまうのです。これは記述に具体性が欠けるからではありません。菅野さんの前作である、「友だち幻想」だって、具体性はありませんでした。ではなぜそんな気持になるかと言えば、事象を切り取る切れ味とでも申しましょうか、問題としてもやっと感じていることを、鮮やかに解説してくれていないのです。みんなどこかで聞いたような話。まあ、それ系の本をたくさん読んでいる当方が悪いのかも知れませんが。
それと、2冊目症候群もあるかと思います。「ジェネラル・ルージュの伝説」で、海堂さんが書いていました。1冊目に感動した読者は、その次の本に過大な期待を寄せるのだとか。今回も、そうである可能性もあります。

ちくまプリマー新書というと、ティーン向けというイメージがありますが、本書は間違いなく親や先生向けです。教育に興味を持っている方、行き詰まりを感じておられる方ならば、お読みになっても、きっと損のない一冊と言えるでしょう。

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コメント

TBさせていただきました。
前に読んだなあと思いつつ・・・、
よく中味が残っていなくって、
溜息つきながらさっと復習してから参りました。
う~ん、うまくまとまりませんね。
"クールティーチャー"という概念じたいがしっくりこないんですかね。
教育社会学系の人って、はなしを中途半端にうまくまとめてしまえるところがあるなあと、よそさまのところにお邪魔しても悪態をつく私、でした。すみません。

投稿: 時折 | 2010年12月 8日 (水) 18時47分

時折さん、コメントありがとうございました。
時折さんのブログは、よくチェックしていたはずなのに、この本の記事を読み落としていました(読んでいたら買わなかったのに!残念!!)。
私も「クールティーチャー」ってまったく分かりませんでした。とはいえ、人付き合いの面で分析的な視点を示してくれたという点で、読む意義はあったのかなとも思います。

それから、どうぞ今後もどしどし悪態をついてください。期待しています。

投稿: むらちゃん | 2010年12月 8日 (水) 22時09分

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