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2011年1月 5日 (水)

10年後の日本

「10年後の日本」『日本の論点』編集部:編(文春新書)

時々立ち寄る古書店で本書を見つけ、タイトルに惹かれて読んでみようと思いました。本書の発行は2005年ですから、タイトルが指す10年後とは、2015年のことです。5年前に予見された5年後とは、どんな時代なのだろうと興味を持ちました。

けれども実際には、10年後を予見した本ではありませんでした。予見ではなく現状認識の本、つまり、10年後の日本を見据えたとき、2005年時点での問題はどこにあるのかを俯瞰した本でした。

本書で取り上げられているテーマは、実に多岐にわたっています。一つ一つが、どれも単独で新書にできそうなものばかりです。目次を引用しながら、かいつまんでご紹介します。

  1. 変わる日本のかたち
    • 格差の線引き──自由な競争が社会を引き裂く
    • 消費税二けた化──大幅引き上げは必至
    • 老朽化するインフラ──巨額の血税が廃墟列島に消える
  2. 鍵をにぎる団塊世代
    • 大量定年のその後──700万人が”無職老人”と化す
    • 逃げ切り世代の落とし穴──退職金、企業年金が危ない
    • がん人口急増──団塊世代ががん年齢まっただなかに
  3. ビジネスマンの新しい現実
    • 「匠の技」の断絶と流出──ものづくり大国の凋落がはじまる
    • 訴訟社会の到来──弁護士大増員が係争増加招く
    • バブル入社組の暗転──”第二の団塊”に最後の審判が続く

まず衝撃を受けたのが、1章の中の「老朽化するインフラ」です。公共事業で造られた橋やトンネル、建造物について、建造年度のリストはあるものの、耐用年数と修繕計画がほとんどないとのこと。壊れたらそれに対応のが現実、というのには、開いた口がふさがりませんでした。なんとも無責任。
2章の「がん人口急増」というのも、老年人口が増加するので、当たり前の現象ではありますが、見逃されやすい部分だなと思いました。

  1. 漂流する若者たち
    • Y世代の台頭──成長を信じない若者が新たな文化の担い手に
    • 学力の衰退──ゆとり教育と大学全入の弊害が噴出
  2. 世代が対立する高齢社会
    • 年金崩壊──約束された給付水準は守られない
    • 老人ホーム戦国時代──選択肢は増えるがトラブルも多発
  3. 家族の絆と子どもの未来
    • 教員大量定年──危惧される指導力の低下と教育格差
    • 子どもの体力低下──2016年オリンピック惨敗の予感

4章の「Y世代」という言葉は初めて知りました。バブル崩壊後に生まれた、「不況しか知らない世代」によって、新たな文化が生み出されるかも知れない、という本書では数少ない、明るい未来に関する解説でした。
それから6章の「教員大量定年」は、今(2011年)がピークなのだろうと思っていたら、なんと2021年なのだとか。

  1. 男と女の選択
    • 離婚ラッシュ──「年金分割」施行を待っていた妻たち
    • 生殖医療の限界──子の「知る権利」法制化で精子提供者が激減
  2. 地球環境の危機
    • エネルギー危機──激化する資源戦争に新たな展開が
    • 飽食の未来──食糧危機がやってくる
  3. グローバル経済の奔流
    • 財政破綻へのシナリオ──2010年、国債の大量償還の危険
    • BRICsの台頭──日本に新しいパートナーができる
  4. 不安定化するアジア
    • 現実化するNBCテロ──試される国民保護法の真価
    • 中国協賛等崩壊の可能性──揺らぐ一党独裁の正当性

7章の「年金分割」の話題、確かに実施前の2006年あたりはワイドショーなどで頻繁に取り上げられていました。論調は、皆「熟年離婚の急増」でしたが、実際はどうなんでしょうか? そんなに増えてないような…。10章の「不安定化するアジア」は、まさに現在の状況を予見するような内容でした。

全体としてずいぶん長い引用となってしまいすみません。これでも取り上げられている話題としては半分以下なのです。いくつか論拠が怪しい項目が散見されたものの、全体としては日本の今(当時)をよく知ることができると思いました。そしてそのほとんどが、今につながっています。現在では解決の道筋が見えているものもいくつかありますが、ほとんどは手つかずか、さらに悪化しているような状況。たとえば、未曾有の借金予算となった今年度予算は、本書で指摘されている大量償還の話題から読み解けば、誰が政権を担っても必然であったことが分かります。政権たたきは、いいかげん止めにしないと、そろそろ本当に危機がやってくると実感しました。

私たちは、今という時代を理解するために、今書かれた本や雑誌、新聞だけを読めばよいと考えがちです。けれどもこうした5年前、10年前の本から逆照射してみると、むしろ今がよく見えるような気がしました。「時事ネタの本を、ずっと後から読む」というのは、逆説的ですが、案外効果的なのではないでしょうか。

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