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2011年1月12日 (水)

日経サイエンス(2011年2月号)

「日経サイエンス2011年2月号」(日本経済新聞出版社)

昨年末に届いていたのに、この年末年始、読みたい本が多すぎて紹介が遅くなりました。こんなことでは、自称「日経サイエンス宣伝マン」失格でありますcoldsweats02

さて、今号最も興味深かった記事は、「Front Runner 挑む」でした。今回の主役は、宇宙航空開発機構の山田哲哉さん。「はやぶさ」の大気圏再突入を支えた研究者です。「隕石などの天体ではなく、探査機や宇宙船が地球に帰還するときは大気圏”再”突入という」のだそうですが、この記事を読むまでは正直、「有人宇宙船じゃあるまいし、カプセル一個落とすのなんて簡単では?」と思っていました。
けれどもそれは、とんでもない勘違いだったのです。

山田がそれまで手がけたのは地球周回軌道からの帰還で再突入速度は秒速8km弱。スペースシャトルも同様だ。一方、惑星観から直接帰還する「はやぶさ」の再突入速度は同約12km。再突入の際の加熱は速度の3乗と密度の1/2乗に比例し、機体先頭部の大きさの1/2乗に反比例する。大気の濃いところまで高速で突入する「はやぶさ」カプセルは、結局、スペースシャトルの30倍以上の大きな加熱を受けることになる。(中略)1000ワットの電気ストーブ1万5000台分の熱が集中することに相当する。

1,000ワットの電気ストーブというのは、電気ストーブの中でもかなり高出力のものです。これが15,000台分、しかもその熱があの小さなカプセルに集中するわけですから、燃え尽きないようにするためには相当の技術が必要なことは想像できます。
それだけでも難しそうなのに、「回収してきた物質に熱の影響を与えないこと」「地球での帰還地点を知らせる電波を発信する機材を守り正しく動作させること」の2つを達成しなければならないのです。さらに再突入技術は、前例が2例しかない上に軍事機密もからんで、研究成果が公開されないとのこと。まさに八方ふさがりの状態での成功だったわけです。
改めて、「はやぶさ帰還」という輝かしい成果は、多くの研究者・技術者の力の結集だったのだなと実感しました。同時に、一般メディアでは光の当たらなかった、こうした仕事に光を当てたこの記事は、科学雑誌としての使命を果たしていると感じます。
ただ、日経サイエンスファンとして、あえて苦言を申し上げると、この記事は読み取りに時間がかかりました。通常の科学記事と異なり、NHKの「プロフェッショナル」風にしたい意図は分かりますが、それゆえ分かりやすさが犠牲になっているように感じました。山田さんの開発したカプセルと、それ以外の部品の関係のわかる図は欲しかったですし、山田さんがオーストラリアで回収している作業中の写真はあるものの、説明が不十分なために何の写真なのか、いまひとつわかりませんでした。

本誌ではさらに、「はやぶさ」が回収してきた微粒子についても詳細な記事があり、楽しく読めました。この微粒子にはなぜ価値があるのか、どうやって取り出され、どのように分析されるのか、について書かれていました。そうしたメインの情報だけでなく、私としては、以下の「小ネタ」にも感動しました。

  • 微粒子は、兵庫県にある大型放射光施設Spring-8で分析されること
  • 微粒子の一部が海外の研究機関にも提供されること
  • 将来分析技術が発達する未来のために、一部が保存されること

「Spring-8」というのは、高性能のX線で微細な物質を分析する施設とのこと。「装置」ではなく「施設」とあるように、これは一つの建物です。こういう施設があることに驚くとともに、様々な科学技術が複合技で謎を解明するのだなあと、素直に感動しました。それから成果を日本だけで独占しないことや、未来に託すという研究姿勢にも。

また冒頭のコラムの中では、嘘つきの留学生に博士号を出してしまった東京大学の話題や、ヒ素をリン酸の変わりにする技術についての話題が面白かったです。特に東大の問題は、性善説に基づくシステムの脆弱性を考えさせられたという点で、示唆に富む話でした。

日経サイエンス、今号もおすすめです。

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