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2011年1月 3日 (月)

知的複眼思考法

「知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ」苅谷剛彦:著(講談社+α文庫)

数年前に「教えることの復権」を読んだとき、苅谷さんが紹介していた「考えることを教える授業」に興味を持ちました。同書で簡単に紹介されていた教え方の方法論は、とても合理的に思えましたし、考えるということの本質にも迫っているように感じられたからです。
機会があれば詳しく知りたいと思っていたところ、先日大学の先生から、本書をご紹介いただきました。研究室に入る前の必読書の一つとして、勧めているうちの一つとのことで、迷わず購入しました。

内容は期待に違わずすばらしいものでしたが、なんといっても感動したのが本書の執筆動機です。苅谷さんは「あとがき」で次のように述べています。

学ぶ側から教える立場に変わったとき、いったい自分には何が教えられるのだろうかと考えた。たしかに、大学では専門の授業を受け持つのだから、自分が研究してきたことを教えればよい。専門分野の知識を学生たちに伝えていけば、世間で言われる大学教師は務まる。しかし、教師になりたての私には、専門的な知識を教えるだけでよいのかといった、一種の迷いがあった。(中略)研究者志望の学生ならまだしも、大学を出てすぐに社会に出る学生たちにとって、私が伝えることのできる専門知識にいかほどの価値があるのか。知識そのものの価値よりも、むしろ、知識を受け取る過程で学んでいくことのほうが、ずっと重要ではないのか、と。

これは学校の先生に限らず、およそ「教える」という仕事をしたことのある人なら共感できる部分でしょう。生徒の脳みそに知識という積み木を届けるのではなく、積み木を積み上げる生徒の手助けをするのが教育というわけです。とはいえ、こうした考え方に立つと教育という行為はさらに難しく、手間がかかるようになります。
大学の先生は、教師であると同時に研究者でもありますから、教育に手間を掛ければ相対的に研究者としての時間が減ってしまうことになります。それでも苅谷さんが、この教授法を体系化しようとされたのは、教育を研究する研究者としての使命感かもしれません。実際、本書はかなり気合いの入った構成と内容であるように感じました。

  • 序章 知的複眼思考法とは何か
  • 第1章 創造的読書で思考力を鍛える
  • 第2章 考えるための作文技法
  • 第3章 問いの立てかたと展開のしかた──考える筋道としての<問い>
  • 第4章 複眼思考を身につける

この中で序章は、本書で身につけようとしている思考法の必要性とその考え方についての解説、1章から4章までは、大学の授業を再現したような課題と解説、コラムで構成されています。このうち、本書の主張を最も端的に伝えているのが序章です。
まず、既存の常識や世間の評判によって考える「単眼思考」と、知的複眼思考の違いについて、非常に具体的な事例を使って解説しています。自分では複眼思考ができているような気がしていたものの、単眼思考の事例を改めて提示されると、結構思い込んでいるなと実感させられます。

それともう一つ目から鱗が落ちたのは、「勉強不足症候群」という指摘です。

議論をしていてわからないことがあると、「よく勉強していないのでわかりません」と弁解する学生がいます。自分でわからないことにぶつかると、勉強不足・知識不足だと感じてしまうのです。(中略)ところが、「知らないから、わからない」という勉強不足症候群の症状は、正解がどこかに書かれているのを見つければ、それでわかったことになるという正解信仰の裏返しです。(中略)そうした正解を求める態度は、複眼思考とは対極にある考え方といってもよいでしょう。

勉強していないのでわかりません」という反応は、ずいぶん使ったような気がします。私の場合は、「正解信仰」ですらなく、単に窮地を脱するための言い訳に過ぎなかったので、さらにたちが悪いわけですがcoldsweats01。複眼的な思考を学ぶ前に、それを妨げるいくつかの悪い思考を知る、という構成は非常に有効だと実感しました。

ご紹介したい部分がたくさんありすぎて、なんだかまとまらない感想文になってしまいました。この文章を読んで「読んでみたいな」と思われる方は少ないかもしません。けれども、思考法に興味を持っている方なら、一読して絶対に損のない一冊です。年初にお読みになるのにふさわしい本だと思いました。

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