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2011年1月10日 (月)

発明者をプロデュース

「発明者をプロデュース ~あなたのお子さんが世界を変える~」岩永勇二:著(アチーブメント出版)

本書の表紙には、タイトルとサブタイトルの他に「子供の発明 親の教育」と書いてあります。これは本書の主張から類推すると、家庭教育によって子どもたちを発明家にしましょう、ということです。

こうしたメッセージに対して、「おお、それはいい。うちでも早速やってみよう」という親御さんは何人いるでしょうか。おそらくほとんどいないでしょう。私も最初は、ネガティブなイメージしか持ちませんでした。けれども、本書を読んで考えが変わりました。発明者を育てるということは、人間教育においてとても価値があると思えてきたのです。

本書の前書きで、岩永さんは次のように読者に問いかけています。

この本では、「あなたのお子さんを、人と社会の役に立つ発明者に育ててみませんか?」という提案をしています。(中略)発明者の多くは、不都合なことや困ったこと、問題点などに気づく力が備わっています。同時に、発見した問題を解決する能力を備えています。そして、「人の役に立ちたいというマインド」を持っています。あなたのお子さんがそんな人物に育ったなら、素晴らしいと思いませんか?

つまり、発明者の多くは、問題解決能力が高い上に利他的精神を持っているので、そういう子どもに育てたいのなら、発明者に育てようということです。「逆もまた真」の典型的論法ではありますが、著者の岩永さんは弁理士であるだけに、それなりの説得力があります。
たとえば、第1章で紹介されている、古今東西の発明家の話題。いずれも、「誰かの役に立ちたい」という思いから生まれた発明の事例ばかりです。確かに「これで大もうけしてやろう」という独善的な考えでは、発明に必要な地道な努力(改良や工夫、関係者へのヒアリング)が生まれにくいように思います。これは発明に限らず、商品企画においても同様だと思いました。独りよがりの発想で商品を企画しても、たいてい上手く行きません。

こうした発明事例紹介のあと、第2章では、発明家に育てるために必要な、子どもとの接し方の具体例や、やってはいけない悪い事例などが紹介されています。ここで示されているもっとも重要なプリンシプルは「子どもの言葉や行動は原則としてすべて受け止める」ということ。その実践のためには、次の7つの習慣が必要だと言います。

  1. 傾聴する
  2. 支援する
  3. 励ます
  4. 尊敬する
  5. 信頼する
  6. 受容する
  7. 意見の違いについて常に交渉する(話し合う)

私も一人の親として、なかなか耳の痛い指摘です。多くの場合、「けなす」「命令する」「否定する」「脅す」「罰する」「疑う」「褒美で釣る」など、これと正反対のことばかりやっていますのでweep
そして、こうしたコミュニケーション上の習慣は、親子だけでなく、上司と部下、先生と生徒、夫と妻など、さまざまな関係に共通して重要なのではないかと思い至りました。こうした7つの習慣も、道徳的に「こうしなさいよ」と提示されても、鼻白むだけですが、「発明家を育てる」という目的とともに提示されれば、そういうものかと思いますし、説得力があります。

新しい学習指導要領には、知的財産教育が採り入れられたと聞きます。けれどもその運用はなかなか難しいぞと思っていました。特許や著作権の知識をいくら持ったとしても、役に立ちそうにありませんし、体験だけでは手段が目的になりがちです。
その点本書で展開されている、「発明を志向することは、利他意識、ひいてはコミュニケーション意識を高める」という主張は、知財教育を構築する上で、一つの答えになり得るのではないかと思いました。知財教育は、産業界で必要な知識だから行うのではなく、これからの人材育成にとって、重要な視点だから、という本質の議論も、より明確になるように感じます。

本書は、知財教育など無縁、と思われている親や先生にこそ読んでいただきたいと思いました。構成や表現に若干の読みにくさはあるものの、それを補ってあまりある著者のパッションが伝わってきます。元気をもらえる一冊と言えるでしょう。

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