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2011年1月28日 (金)

イノセント・ゲリラの祝祭

「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊:著(宝島社)

気がつけばすっかり「海堂ワールド」にはまってしまい、またまた「田口&白鳥シリーズ」を読んでしまいました。一人の作家に入れ込まず、幅広く読みたいと心がけているのに、書店でこのシリーズの表紙を見かけると、つい忘れ物をしたような気分にさせられてしまうのです。中毒性があるのかも知れません(笑)。

さて、本書はこれまでのシリーズと異なり、謎解きの要素はほとんどありません。上巻で田口と白鳥が食事の帰りに死体を発見する、というのが唯一の「事件」です。けれども十分楽しめる作品でした。

厚生労働省のロジカル・モンスターこと白鳥圭輔から呼び出しを受けた田口公平は、医療事故調査委員会に出席するため、日本の権力の中心地、霞ヶ関に乗り込んだ。だがそこで彼が目にしたのは、崩壊の一途を辿る医療行政に闘いを挑む、一人の男の姿だった。累計780万部を突破する田口・白鳥シリーズの、新たなる展開に注目。大人気メディカル・エンターテインメント第4弾!

以上が下巻の表4記載のあらすじです。ただ「日本の権力の中心地、霞ヶ関に乗り込んだ」というのは正確ではありません。「乗り込む羽目に陥った」というのが正確なところ。田口を陥れたのは、言わずと知れた白鳥。彼はある意図を持って、田口を「医療事故調査委員会」に参加させたのです。

この会議の様子と、会議参加人物の様子で、下巻の大部分が占められています。議論や論理が苦手な人には、あまりお勧めできないところです。けれども、私にとっては実に面白く味わえた部分でした。「チームバチスタの栄光」で際だったのは、論理による謎の追究です。特に下巻で白鳥が演説を展開する場面は、圧巻でした。本作では、その圧巻だった「論理的演説」が、演者を白鳥から「一人の男」に替えて展開しています。

特に舞台となっている「医療事故調査委員会」は、医療関係者や役人だけでなく、その性質から法曹関係者も参加しています。いわば論理のプロ。それに対して議論を挑むのですから、論理好きの人なら、この部分が面白くないはずがありません。ディベートに興味を持っている方などは、特に興味を持って読めるでしょうし、参考にもなるのではないでしょうか。
その論理展開を引用すると長くなってしまいますので、代わりに法学部教授との論戦に決着がつくシーンをご紹介します。象徴的場面であり本書のテーマにも関わる内容ですから。

「しかし、日本の土台は法律が…」
「つくづく物わかりの悪い人だなあ。たとえ国家は滅びても医療は必ず残る。医療とは人々の願いであり、社会に咲いた大輪の花なんです」

社会制度は、市民の生活のために存在するのであり、制度を司る人たちのために存在するのではない、という主張です。確かに医療や子育ては、国家が無くても残るもの。だからこそ、役所や学会の都合で制度を決めてはならない、というのが海堂さんのメッセージではないでしょうか。本書は「成熟日本への進路」の読了後に読んだこともあり、官僚組織が制度疲労を起こしていることは間違いないのではないかと感じました。

そして、もう一つユニークなのが、本書巻末の解説。いや、正確には解説ではなく補足とでも言うべき文章です。「海堂作品は国会議員を動かし、波紋を起こした」と題して、前衆議院議員の橋本岳氏が寄稿しています。海堂さんの主張する、エーアイの導入が、ついに国会議員を動かしつつある、という話でした。エンターテインメント作品とはいえ、強い意志のある作品は、世の中を変えて行く力になるのかも知れません。
そうした時代の節目における医療行政改善の提言と、論理展開の面白さ。世の中が分かり、論理の勉強にもなる、いわば、一粒で二度おいしい、なかなかお得な作品でした。

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小説「イノセント・ゲリラの祝祭」を読みました。 著書は 海堂 尊 おなじみの田口・白鳥シリーズ第4弾 今回は医療行政がテーマで ちょっと 小難しいテーマながらも しっかりと エンタメ作品として読めるから流石です どこまで 本当なの?と思わせるほどの 医療行政の...... [続きを読む]

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