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2011年1月24日 (月)

ボトルネック

「ボトルネック」米澤穂信:著(新潮文庫)

米澤さんはずっと気になる作家でした。映画になった「インシテミル」のレビューは、総じて好評なものが多かったですし、なによりこのカッコイイ表紙。「インシテミル」とどっちを読もうか迷っていたとき、刺激的な帯の文言が目に入りました。

「このミステリーがすごい!2010年版」宝島社
作家別投票 第一位
プロが認めたこの実力を見よ!!

その上表4には、なかなか面白そうなあらすじが書いてありました。

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

この物語の舞台となっているのは、主に石川県の金沢市。主人公のリョウが住んでいる街です。けれども、そこはリョウが知っている金沢とは別の金沢でした。リョウの家や家族、友だちなどはリョウの世界と同様に存在したものの、微妙な点において違っていたのです。そして最も大きく違っていたのは、リョウの代わりに「姉」がいたこと。
いわゆる「パラレルワールド」話、ということで「ミステリーというより、SFなんじゃないの」などと思いながら、わくわくして読み始めました。

本作で提示されている「パラレルワールド」は、自分が生まれていない世界です。
若かりしころ、「自分なんか生まれてこなければ良かったんだ」と思ったことはありませんか。私自身は、家族と喧嘩したとき、友だちと上手く行かなくなったときなど、世間との折り合いに苦しんだときに、よくそう思いました。けれども、死ぬならともかく「生まれてこない」ということは、もはや実現しようのないことです。結局、そのように考えるのは、実現するはずのない事態を想定することで、うまく行かない「もやもや感」を消化したいからでしょう。自分が生まれていない世界を心から願っているわけではありません。

けれども主人公のリョウは、まさに「自分が生まれていない世界」を目の当たりにさせられてしまうわけです。彼がもし、毎日幸せいっぱいで生活していた少年なら、こうした「パラレルワールド」を楽しむ事もできたでしょう。しかし実際には、リョウの家族は崩壊している上、恋人も亡くなってしまうという悲劇の真っ最中に違う世界を見せられたのです。その衝撃はいかばかりか。そして、リョウはそこに何を見出すのか──これが本作のポイントです。青春の蹉跌を描く手法としては、なかなかうまいなあと思いました。

けれどもそうした着想と設定の良さに比較して、本書全体の構成と結末には、少々疑問が残りました。どうにもうまく捉えられなかったのです。読み方が悪かったのかなと思い直し、もう一度読んでみたのですが、かえって謎や違和感が深まるばかり。さらに物語集版で明かされる、「ボトルネック」の意味するところに対してもまったく納得できません。う~ん、これはいったい…。
本書は、文庫化されてから1年あまりで、16刷りにもなるベストセラーですが、どうにも楽しめませんでした。巻末の解説も、私にはぴんときませんでした。「作家別投票 第一位」というのは幻だったのでしょうか? 誰かに教えて欲しい気分でいっぱいです。

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