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2011年1月17日 (月)

さおだけ屋はなぜ潰れないのか?

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学」山田真哉:著(光文社新書)

数年前にベストセラーになったときは、本書を読みたいとはまったく感じませんでした。「さおだけ屋」は、少なくとも私にとっては身近な存在ではありませんでしたし、最近見なくなったのは、まさに「潰れた」からじゃないの? とも思ったからです。
それでも最近会計学に興味を持っていることもあり、参考にしてみようと思いました。見返し部分に記載された本書の概要は、なかなか興味をそそります。

この本は、「会計が嫌い」「会計が苦手」「会計を学んでも意味がない」と思っている方のためにあります。「会計」はけっしてやさしいものではありませんが、《会計の本質的な考え方》はそれほどむずかしくはありません。本書では、日々の生活に転がっている「身近な疑問」から考えはじめることで、会計の重要なエッセンスを学んでいきます。 本書は、いわゆる「会計の入門書」ではありません。細かい財務諸表はひとつも出てきませんし、専門用語もそれほど多くはないので、気を楽にして、ひとつの読み物として読んでみてください。きっと会計に対する見方が変わるはずです。

本書が本当に会計学の入門になっているかどうかは、正直よく分かりませんでした。決算書の考え方、とか会社経営との関係という意味で言えば、以前に読んだ「稲盛和夫の実学」の方が、はるかに実践的だし説得力があったように感じます。

それでは本書は「読む価値無し」なのかといえば、そうではありません。やはりベストセラーになるからには、それなりの理由があるはず。私は、そのポイントとして次の3つを考えました。

  • 想定読者を、一般の人に絞ったこと
  • 会計学の要素を説明する事例選定の巧みさ
  • 章ごとに設けられたサマリー、会計用語集、索引など、読者に優しい編集

まず「一般の人向け」というのは、身近さと分かりやすさに特化している、ということです。本書の説明は、専門家から見ると不十分でしょうけれど、あえてそうしたのだと思われます。分かりやすさと詳しさは、たいてい並立しませんから。しかし対象読者を絞り込む、とはマーケットを縮めることですから、営業的にはリスキーです。その危険を冒してでも、「一般向け」を徹底した本書は、それだけでも価値があると思います。

次に要素の絞り込み方。本書で取り上げられているのは、たったこれだけ。

  • さおだけ屋の経営に見る「利益の出し方」
  • 住宅街の高級フランス料理店でわかる「連結経営」
  • 商品だらけのお店でわかる「在庫」と「資金繰り」
  • お店の完売御礼でわかる「機会損失」と「決算書」
  • ギャンブルに見る「回転率」
  • 飲み会のワリカンでわかる「キャッシュ・フロー」

しかもその説明に使われているのが、「洋服ダンスの在庫」とか、「フランス料理店の副業」とか、「麻雀の2位ねらい」など身近な話題ばかり。ちょっと意外性があって、しかも「ほほう」と思える事例をそろえて説明する手腕は素晴らしいと思いました。おそらく、著者の山田さんは、日常生活の様々な場面を「会計」というフィルターを通して眺めているのでしょう。だから、こうした例示ができるのです。

最後に読者に優しい編集。章(本書では「エピソード」と称しています)の終わりにはいつも、「まとめ」が付記されているので、内容を振り返りながら読むことができます。それに索引や用語集がついているので、必要に応じて読み返すときにも便利です。「会計のことわざ」など、ページ数を増やすために付録をいっぱい付けた、という意地悪な見方もできはするものの、こうした複線的な編集は、本書のような説明的文章には重要だと思いました。

なんだか内容よりも本の作りの話題に終始してしまいました。これは、会計の入門書として役に立たなかったわけではなく、私自身の興味が「分かりやすく説明すること」にあるからです。その意味で、いろいろと得るところの多かった一冊でした。

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