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2011年1月 7日 (金)

即戦力は3年もたない

「即戦力は3年もたない 組織を強くする採用と人事」樋口弘和:著(角川oneテーマ21)

書店でタイトルを見たとき、「中途採用に過大な期待をするのは止めて、新卒の教育に力を入れましょう」という内容なのだと想像しました。しかし実際は、そんな単純な主張ではなく、次世代の企業人事について考察と提言を行っている本でした。
そのために必要な概念が「人材ポートフォリオ」であるとして、樋口さんは「はじめに」において、次のように書いています。

人材ポートフォリオの発想の基本は、「社員は同列に管理すべし」という従来の考え方を捨てて、「事業で成果を出すために最も効率的な人材マネジメントを考えること」にあります。このように企業の人事は、新卒採用を絶対と考えるのでもなければ中途採用に対する即戦力幻想も持たない「新たなステージ」に入ったといえるのです。

大学名のブランドで新卒を採用したり、履歴書の企業名や業績欄だけで中途を採用するような企業は、もはや生き残れないといい、そのためには、人事情報も、財務と同じようにバランスシート的な運用をすべきだと言うのです。
こうした指摘は、企業で人事部に在籍していた方や、事業部の責任者等で人員採用に関与した方なら、実感できるのではないでしょうか。お腹が空いているときに買い物に行くと、つい商品の吟味がおろそかになってしまうのと同様、忙しい部署や稼いでいる部署ほど、人事採用は得てして感覚的なものになりがちです。私もずいぶん失敗しました。

このように、人事における問題の所在を明らかにして以降、「人材の見える化」「採用面接の仕方」といった、具体的な解説がなされています。とりわけ面接については、かなり具体的なアドバイスが書かれていました。たとえば次の部分。

面接で私は、本当に優秀な人材かどうかを判断するポイントとして、とくに三つの資質を見極めることに注力しています。その三点とは、「性格の素直さ」「思考のやわらかさ」「情熱(ハート)」です。(中略)実はこの三点というのは、それまでの生き方を通じて形成されてきたものであり、入社後の短期間で変えることが非常に難しい要素なのです。このように「入社後に教育できない」(中略)資質こそ、採用時にしっかりと見抜かなければなりません。

この指摘も「なるほど」と参考になる上、さらにその具体的な運用方法が3段階で解説されています。
まず1つ目は、この3つの資質を見抜くための質問例が提示されていること。「性格の素直さ」や「思考のやわらかさ」を聞き出す質問例には、一定の合理性がありました。この例をそのまま使わないにしても、考え方としては納得できるものでした。
2つ目は、面接回数とその意義と目的が書かれていること。面接は、「面接官、候補者双方の状態(気分、体調、そして相性など)によってバラツキが生じるもの」だとした上で、3回の面接を推奨しています。それぞれの段階で、誰が何を見るか、評価シートはどのように設計するか、合否判定はどう行うか、と説明はかなり詳細です。
3つ目は、採用後の評価を採用時の評価と連動させるという提案。人事担当は、採用した人員の評価は事業部門に任せてしまいがちですが、入社時の評価とその後の評価を連動させることを継続することが、人材育成につながると言います。さらにそれが、次の採用をより精緻なものにしてゆくと言うのです。

「人材ポートフォリオ」というのは、以上の3つがそろった「採用→育成」システムなのです。実現するのはなかなか難しいでしょうけれど、これはなかなか重要な視点だと思いました。たいていの採用面接は、相手の経歴や反応に応じて、よく言えば臨機応変、悪く言えば場当たり的であり、1次面接、2次面接と回数は設定されていても、それぞれが有機的につながっていない場合が多く、ましてや育成と連動するなど、想像もしていないところがほとんどでしょう。

本書の帯には、「人事のプロは面接で何を訊くのか」と書いてありました。就活生や転職を考える人に買ってもらおうという意図なのだと思います。確かにそうした目的にもある程度合致するでしょうけれど、やはり中小企業の経営層や、人事部門の管理職、採用担当者が参考にすべき本です。何かしら得られるものがあると思います。

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コメント

とても魅力的な記事でした。
また遊びにきます。
ありがとうございます。

投稿: あろえ | 2011年1月 7日 (金) 13時18分

あろえさん、コメント&お褒めの言葉ありがとうございました。
またどうぞ、おいでください。

投稿: むらちゃん | 2011年1月 7日 (金) 15時58分

掲載されている本を読んだわけではなく、
記事を流し読みしただけなのでピントがずれているかも知れませんが
面白いトピックを扱われていると思いますので書かせてもらいますよ。

人と人とのマッチングですからね…ある種、永遠のテーマでしょうね。

中途採用を行う場合の前提として、
①「中途採用者には、あくまでも自社の文化に合わせてもらう」との前提でいるのか、
もしくは、
②「中途採用者には、自社にない能力・経験を求め、それに付随して起こる変化を会社としても受け入れる」
との前提でいるのか
採用する側の姿勢によっても変わってくると思います。

ただ採用する側にも能力的な限界があったり(知らない知識、経験したことがないことをまともに評価することなど
基本的にできない)、在籍期間による序列意識のようなものも実際現場にはありますので
一般的に多いのが①なのでしょうね。

でもって、
>「性格の素直さ」「思考のやわらかさ」「情熱(ハート)」
というのを求めたがると…
要するに採用する側にとって従順か否かを見抜くのが面接時には重要だと。
多くの企業で従来から好んで使われてきた合否基準なのでしょうね。
薄々誰もが気付いていることを文字で確認できたようで興味深いです。

もちろん能力的に高くとも他所で育った中途社員が、
既存社員と文化的に合わないケースもあるでしょうからある意味正しいのでしょうが、
本気で強い組織を作ろうと考えた場合、何か違う(足らない)ような気もいたします。
特に国際的な競争を踏まえた場合。

マクロ的に高齢化が進み、日本国内の内需が萎んでいくことを考えれば
生き残っていく企業というのは、規模の大小・業種を問わず、
外国での活動、外国企業との協業の割合を増やしていかざるを得ないと思います。

小生、外国企業と仕事をする機会がありますが、
ここ最近の傾向として、これまであまり海外取引の経験のない企業(規模・業種は千差万別)、
担当者がそれほど得意でもない英語を必死に駆使して、商談に参加することが多くなっていると感じますよ。
業種を問わず、今後増えていくのでしょうね。
そして近い将来、これまで外国人とのやり取りなど意識しなかった層も
この大きな流れに巻き込まれていくのだと思いますよ。

採用する側にとって従順である、という軸で採用した人材で勝てるのだろうか?

と率直に疑問を持ったりはします。

投稿: 向かいの億万長者 | 2011年1月10日 (月) 01時16分

向かいの億万長者さん、コメントありがとうございました。

本書で樋口さんが示している
>>「性格の素直さ」「思考のやわらかさ」「情熱(ハート)」
というポイントは
>> 採用する側にとって従順である
というポイントではありません。これは本書で示されている質問例を見れば明らかなのですが、それをここで書いてしまったら著者に失礼だと思いましたので記載いたしませんでした。要するに、失敗しない採用をするために確認するポイント、ということのようです。

私見ですが、組織を活性化してくれるような人材を受け入れられるかどうかは、人事担当者ではなく、極めて経営者の資質の問題という気がしますね。
最近の日経ビジネスに、雪国まいたけの社長さんが、ヘッドハントによって企業体質の改善に成功したという記事が掲載されていました。

投稿: むらちゃん | 2011年1月10日 (月) 09時06分

むらちゃん様、返信ありがとうございます。

 >>「性格の素直さ」「思考のやわらかさ」「情熱(ハート)」
 というポイントは
 >> 採用する側にとって従順である
 というポイントではありません。

承知いたしました。ご指摘ありがとうございます。

いずれにせよ、興味深い本ですので読んでみます。
ありがとうございます。

投稿: 向かいの億万長者 | 2011年1月10日 (月) 14時51分

向かいの億万長者さん、お返事ありがとうございました。

はい、「ものすごくお勧め」というわけではありませんが、読んでおいて損のない本だと思います。

投稿: むらちゃん | 2011年1月11日 (火) 02時22分

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