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2011年2月25日 (金)

世にも美しい数学入門

「世にも美しい数学入門」藤原正彦/小川洋子:著(ちくまプリマー新書)

本来なら、私が絶対に手にしない類の本ですcoldsweats01。タイトルは数学だし、著者の一人は藤原正彦さんだし。「国家の品格」を初め、著書は何冊か読みましたが、なんだかいつも怒っている印象の学者さんです。

それでも読もうと思ったのは、やはり小川さんが書いていること。「博士の愛した数式」は、印象的な作品だった上に、作者本人がその作品について数学者と語るというのは、やはり興味をそそられます。さらに小川さんが書いている「まえがき」も魅力的でした。

私の数学レベルは、分かりやすく言えば、町内の少年野球の補欠レベルであろう。藤原先生はもちろん大リーガーである。これだけの大きなギャップを背負っているにもかかわらず、私は一瞬たりとも退屈をしなかった。それどころか次々と新しい地平が目の前に拓け、いくらでも質問がわき出してきた。本書を手にとって下さる方々にも必ず、私の味わった胸の高鳴りが伝わるはずだと信じている。自分の立っている世界が、こんなにも美しい秘密に満たされているという事実を、一人でも多くの方と共有できれば幸いだ。

私は勝手に、小川さんというのは「体温の低い」作家だと思い込んでいたので、この熱い文章はちょっと意外でした。いつも冷静な印象の小川さんが、これほど熱くなった数学の議論とは──そう思うだけで読まずにはいられません。そして実際、本書は小川さんの熱が伝わってくる本でした。

本書は、小川さんと藤原さんによる2つの対談(第1部と第2部)で構成されています。大雑把に分けると、第1部は、藤原さんが小川さんの作品「博士の愛した数式」を読む前で、第2部は読んだ後の対談です。
第1部は、数学や数学者に関する一般的な対談で、主に数学の美しさが語られています。このうち、印象的なのが、小川さんが語っている次のことば。

三角形の内角の和は180度であるということ自体がもう、素晴らしく美しいと思うんです。その「三角形の内角の和が180度である」という一行が持っている永遠の真理は何物にも侵されない。永遠の真理の美しさというのは、どんな文学でもどんな詩の一行でも表現できないものをもっていますね。

「三角形の内角の和が180度である」という文が、詩や文学よりも美しいとする小川さんの考え方は、私にはよく理解できません。けれども、確かにこの一行が小川さんの作品中にあったとしても、さほど不自然ではないように感じられます。私のように数学が苦手な者に対して、数式を見せながらではなく、文学のようにとらえて、数学の美しさを語る、というアイディアは実に秀逸だと思いました。
それから第1部ではもう一つ、藤原さんが学問について語っている、次の部分が印象に残りました。

小川 数学者の人は、実用にすぐ役立っているというのはむしろ……。
藤原 恥ずかしいことなんです(笑)。役立つというと格下になっちゃうんです。だから、ケンブリッジ大学でも、つい近年までは工学部というのはなかったんですよ。すぐに役に立っちゃうから。そういうものは学問とはみなされないんですね。

「役に立たないからこそ学問」というのは、内田樹さんもどこかに書いていたような気がします。少し前の私であれば、まったく理解不能の理路であったことでしょう。しかし、今はよくわかります。役に立たないからこそ、純粋に考えることをことができる、考えることそのものを楽しむことができる、ということです。本書の対談では、藤原さんから数学の役に立たなさ加減が何度も語られ、役に立たないことの魅力が理解できるようになっています。

そんな第1部に続き、第2部では具体例を挙げて数学の美しさが語られます。数式や図形の美しさについては、正直よくわからないものもありました。しかし、対談の熱さ、二人の乗っている感じは十分伝わってきます。魅力的なフレーズもどんどん飛び出してきます。
これは藤原さんが、「博士の愛した数式」を読んだから、という以上にお互いに尊敬し合った中での対談だから、という面が大きいように感じます。この第1部と第2部の違いも、本書の魅力の一つだと思いました。

こうした対談が、中高生も読者に据えている「プリマー新書」で出ているということの意義も感じます。若く頭の柔らかい時期に、数学の美しさをこんな形で説明されたとしたら、とても意味があるなと思うからです。数学の教科書も、こういう内容でスタートしていたら、数学への認識がずいぶん違ったものになったのではないかなとも思いました。

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